第一夜戦

第59話 夜戦の方針

「情報を整理しますと敵機動艦隊は2部隊あり、1群(丙)は空母と戦艦5計隻、巡洋艦10隻前後、駆逐艦多数でどうやら2つに分かれているようです。2群(丁)は輸送船4隻と巡洋艦、駆逐艦多数です。情報が曖昧なのは潜水艦のソナーで推進器音から判別したためです。潜望鏡深度に浮上して音信不通になった艦が何隻もいますのでこれはやむ終えません」


戦務参謀の阿部孝壮大佐が報告を終えた。彼は史実では第4艦隊の根拠地隊の司令を務め米兵の処刑を行ない戦後戦犯として死刑施行された。しかしこれは根拠地隊が艦隊司令部に捕虜の取扱いについて指示を仰ぐも返答がなくたまたま立ち寄った軍令部員の岡田貞外茂大佐に指示を仰いだところ処刑を命じられたことによる。戦後第4艦隊の司令であった井上は阿部の息子に「本当に申し訳のないことをしました」と伝言している。


丁部隊は数時間前に発見の報告が入ったばかりだった。


「丁は上陸船団なのかね?」


井上が阿部に問うと阿部は少しためらったが話始めた。


「確認されている情報によると丙よりも丁の周辺で音信不通になる潜水艦が多いです。MO作戦が始まってから第六艦隊の潜水艦は7隻通信が途絶えていますが、このうち5隻については丁の周辺で通信が途絶えました。興味深いことに一部の潜水艦は空母4隻を伴う艦隊だと報告していました。推進器音は輸送船と同一そうなので護衛空母の可能性が高いです」


井上はしばし考えた後、こうつぶやいた。


「まずいな...」


敵の護衛空母の艦載機総数は4隻で100機ほど、丙には少なくとも2隻の正規空母(ヨークタウン級一隻、サラトガ)がいるので2隻の艦載機の合計は180機、計280機となる。十勝型の常用搭載機は34機、6隻で204機、およそ80機もの差がある。


「または5隻が全部空母の可能性も...」


情報参謀が言う。


「あくまでも可能性だ、可能性」


中澤がそう言いながらも下を向く。


「最上型があるじゃないですか、きっと大丈夫ですよ」


阿部がその場を取り繕うと必至に話題を変える。


「そういえば最上型は先の戦闘で砲身命数が限界値を超えたそうだから一旦後方に砲身交換の為に下がるそうだ」


空気を読まない井上がその場の空気をさらに悪くする。実は最初の対空戦闘から2時間後にB17、20機が艦隊を空襲しに来たのだが最上型と高角砲で投弾をする前に全滅させていた。その時の戦闘で最上型4隻の砲身命数は限界を向かえたのだ。


「...」

沈黙。


「ああ、房総型の三浦と大隅がMO作戦輸送船団に同行してるから明日の終わりには戻ってくるぞ」


「...」

再び沈黙。


「明日の終わりってもう会敵して戦闘終わっているじゃないですか」


白石の指摘でまた空気が重くなる。


「まずいな...」

本日二回目の発言。


「はぁー」


皆の口からもつい溜息がこぼれる。


「結局潜水艦まかせですか」


そこで井上は思い出した。

「あっ、そういえばツラギに派遣した第22航空戦隊の護衛艦艇ってまだソロモンに待機しているんだっけ。夜戦、できるか?」


井上の提案に矢野はそろばんを片手に計算すると


「できますね」


と一言言った。現在時刻は午後4時過ぎ。両軍の機動部隊同士がお互いの攻撃圏内に入るのは双方の速力から計算すると明日の早朝(午前5時)だが第22航空戦隊はツラギ辺りに搭乗員の救助も兼ねて待機しているのでそこから敵機動部隊に最高速力で向かえば0時前には会敵するだろう。無論敵の進路が大きく変わらなければの話だが。


「では計画をたてるとするか」

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