第57話 事後
「敵機去っていきます」
最上型が追い打ちをかけるように射撃する中、見張員は報告した。
「回避行動を取る必要は無いでしょう」
爆弾が降ってくるであろう上空を見ながら白石はつぶやく。上空に見える黒点が数秒であっという間に大きくなった。その時だった。高度500メートルあたりで突如敵の爆弾が落下傘を開いたと思ったら分裂したのだ。
「大型の親子爆弾でしょうか?」
「機雷か?」
参謀らも爆弾が着水して水柱が何十本か立つのをみてそう思ったようだ。だが井上は見ていた。分裂した爆弾は細長く尾部が尖っていて何かがついていた。その姿はまるで.....。青白い航跡が近くの海面に滑るように描き出され艦隊のいる海面には無数の航跡が海中で生み出されていた。
「魚雷だぁ!」
「右舷からくるぞ!」
悲鳴と罵声が飛び交う中艦長は判断した
「面舵いっぱい!回避せよ!」
その時、低く鈍い爆発音が轟いた。それを聞いて井上は右舷の方を見た。一隻の松型駆逐艦の脇腹に巨大な水柱が立っていた。途端に爆雷か魚雷、弾薬庫に火が回ったようであっという間に火球となり爆発しながら水面下に姿を消した。
「黍、轟沈!」
悲鳴が上がる間にも悲劇は更に続いた。後方をゆく十勝型航空母艦3番艦吉井の左舷に水柱が立ち上がったのだ。傾き始めた吉井の飛行甲板から傾斜に耐え切れずずり落ちていく零戦が見えた。実は最上型防空巡洋艦2番艦三隈も被雷していたのだが幸か不幸か不発であった。
「吉井、応急活動により傾斜回復しています。黍の生存者については駆逐艦が収容を開始しました。」
白石が報告するが井上の頭には言葉が入ってこなかった。敵艦隊とまだやり合ってもいないのに空母が被害を受けるとは....。
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「というわけで敵重爆撃機B17は5本の魚雷を束にした爆弾を高高度から使ったということです。着水した魚雷は放射状に広がったことも直掩機の搭乗員の報告でわかりました」
30分後に行われた筑後艦内の作戦会議室での対策会議で参謀の報告で艦隊は窮地に陥ったことを皆は悟った。
「少なくとも敵が我が艦隊が出港してから攻撃をしたということはブリテン島近海に敵の潜水艦がおり、それが我が方を察知したのでB17が出撃したということでしょう。ではなければラバウル泊地に停泊しているときに攻撃されれば第四航空艦隊は壊滅状態ですので。」
「しかしどう対策するんだ、あんな高高度を飛ぶ要塞に対抗するすべなどないぞ!」
中澤が怒鳴るようにいうと井上がそれを無言で制した。
「一回の攻撃で敵機は40機もなかった。これはB17のオーストラリア方面の基地での稼働数が少ないことを意味する。大編隊で波状的に攻撃を受けたら艦隊も大損害を受けるかもしれないが、最上型と高角砲だけで20機近い敵機の撃墜を確認している、航空機の編隊で消耗率が50%を超えるのは壊滅と言っても過言ではない。もし反復攻撃を受けたとしても逆に稼働数の少ない敵機を返り討ちにできるだろう。今後の対策としても高雄型や妙高型の主砲を65口径九七式15.5糎速射両用砲B型に変装すれば十分に対抗できる。少なくとも今これを心配する必要はない。我々が考えなければならないのは敵空母だ」
井上の言葉に誰もが自分の事を恥じた。目の前の被害に惑わされて戦略的なことを忘れていたのだ。まあ、自分も動じていたんですけど、しかし、我ながら成長したなぁ、前だったら絶対参謀達のようになっていたしなぁ、そう思う井上をよそに作戦会議は続くのだった。
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