空の要塞

第54話 MO機動部隊出撃

ー5月4日MO機動部隊旗艦空母筑後、ラバウルー


機動部隊がラバウルにいた理由は主に2つあり、ーつは第四航空艦隊の搭載機が定数を満たしていなかったため内地から飛び石でラバウルに飛来しそこで受け取る予定だったからだ。2つ目は攻略部隊の再編成に伴い作戦が数日延期されトラック泊地で編成された攻略部隊の輸送船団を待つ必要があったからである。艦橋で護送空母が全滅したとの報せを受けて井上は唖然とした。別に井上は敵空母を警戒していたわけだが、護送空母を派遣したのはそれ以上に退却中の輸送船団が空母の攻撃を受け壊滅することを危惧したからでもあった。偵察拠点としてのツラギの確保と維持はMO作戦を進める上で必須でありまさか全滅するとは思ってもいなかった。


「敵機の大多数は戦闘機だったようです。しかし多少機数が多い程度では零戦が押されるとは考えられませんな」


参謀の一人がつぶやく。


「通信できた救助された搭乗員の話によるとどうやら敵は対零戦の新戦法を用いて来たようです。大まかに言うと敵機は2機一組になって零戦を交互に援護しながら攻撃するそうです。」


航空参謀が報告した。


「何か対抗策はあるか?」


井上は筑後の飛行隊長、志賀淑雄少佐に訪ねた。彼は加賀の乗員として真珠湾攻撃に分隊長として零戦に搭乗して出撃し戦闘機1機撃墜、B17を2機共同撃墜する戦果を上げていた。そのこともあり、加賀沈没後筑後では少佐に昇級して飛行隊長になっていた。


「知っての通り現在海軍の戦闘機隊の最小基準は小隊で3機で構成されます。これは敵の数が同数だった場合、一小隊に敵は1.5組向かってくるわけです、2組以上にたかられたら格闘戦ドッグファイトに持ち込まない限りは敵機の一撃離脱戦法で負けるでしょう。1組と一小隊でも搭乗員の技量に左右されるでしょうな。戦術的には日本も2機一小隊にするのが一番の対抗策でしょうが時間がないので搭乗員に敵を今まで以上に不用意に深追いしないこと敵が急降下したら追尾はしないことなどを訓令しておくのがいいでしょう。よろしくお願いします」


「分かった。各艦の飛行隊に訓令しておこう。」


「は!」


そして話は今後の作戦動向に移った。


「現在敵機動部隊はツラギより南南東350海里(600キロ)の位置を北西に移動中です。既に3隻あまりの潜高型が追尾をしています。」


そう、ツラギが攻撃を受けた際、各艦の電探に写った敵機の帰還方向に97式、2式飛行艇が偵察を開始し、敵機動部隊を発見、その情報は珊瑚海に潜伏中の各潜水艦に伝えられ追尾を開始したのだ。


「情報によりますと敵は空母もしくは戦艦合計5隻、巡洋艦10隻前後、駆逐艦多数と思われます。また偵察機がその機動部隊より南に100海里ほどはなれた海域に空母を含む艦隊があることを報告していますが直後に撃墜されたため詳細はわかりません」


「まず制海権を確保しなければならない以上、衝突は必然だな」


井上はこうなることを恐れていたのだ。軽空母6隻では分が悪い。そして恐らく史上初の本格的な日米の空母同士の戦いになるだろう。


「作戦を延期して敵が引くのを待つという手はないんですか、その間にこちらも増援の空母を加えれば必勝ですが」


参謀の中澤佑が言う。彼は史実では人間爆弾桜花の部隊の指揮や特攻作戦を承認し推進を行った。


「首相が逝去した今、政府だけでなく陸軍参謀本部や軍令部は大混乱に陥っている。もし作戦を延期するとなれば再開は7月以降になってしまうだろうし、」

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