第45話 報せ

「せめて第七航空戦隊だけでもと嘆願したがだめだった。軍令部の予定では第三航空艦隊はアラビア方面に投入されるそうだ。その為に戦力の消耗はできるだけ避けたいらしい。それに第七、第八航空戦隊は5月明けの射出機の搭載改装が控えているからまあ無理なんだろうがな」


山本がそうぼそっと呟く。第一、第二航空艦隊は射出機の搭載や他の作戦(恐らくアリューシャンからミッドウェーあたりだろうと井上は考えていた)に従事する必要があるし、やろうと思えば無理なことはないだろうが燃費も馬鹿にならないしこれも無理だろう。第八航空戦隊は第二艦隊と共にセイロン島空襲や商船狩りをインド洋で行ない帰路についている途中であった。


「だから何となく矛盾を感じたんです。ただの攻略作戦には過利な戦力ですがかと言って最大で四隻と推定される米空母と渡り合うには不十分ですし、」


「その米空母ですが敵信班の傍受した通信や特務機関の情報から新たにヨークタウン型がもう一隻就役したことが確認されています。」


其れを言ったのは特別派遣されてきた海軍通信学校卒の元社団法人日本放送協会の通信関連を務めていた上村大佐だ。彼はGF荘に新しく設置された連合艦隊直属の情報部門のトップである。


「また、少なくとも四隻の大型正規空母が建造中のようですが、詳細は掴めておりません」


出番があまりないだろうからなのか早々と報告すべき内容を簡潔に言った。


「空母は無理ですが戦艦なら軍令部も拒むことはできないでしょう。軍令部にこちらから掛け持ってみます」


ハワイ作戦でも戦艦の艦砲射撃の有用性は示されている。ポートモレスビー攻略は上陸作戦なんだから戦艦はあって然るべきだろう


「軍令部もそこまで馬鹿じゃないからな、4月末までに敵空母の居場所が掴め、それがポートモレスビー攻略隊を充分脅かすような戦力だったら第八航空戦隊ぐらいは追加するだろうな。」


元々ポートモレスビー攻略は第三艦隊のみで4月初めに行われる予定だったのだが米空母の居場所が掴めていないことを警戒して1ヶ月先延ばしされたのだった。


「指揮権についてはどうなるのですか?」


第二艦隊司令の近藤信竹中将が質問した。そう、井上と近藤は同じ中将でありポートモレスビー攻略艦隊の指揮系統では司令官が2人いることになってしまう。


「そもそも第二艦隊は上陸船団の護衛、第四航空艦隊は空襲や万が一の米空母の迎撃を行うから距離は離れているし、そこはそれぞれでいいだろう。攻略作戦自体は高橋中将が指揮するが、第四航空艦隊はその指揮下には入らない、遊兵として攻略隊からの要望に応じて行動することになる。」


山本がそういったところで南雲が質問した。


「ですが指揮権は二分されると作...」


その時だった。作戦会議室の右にある両開きの扉が勢い良く開き士官と思わしき兵が入ってきた。制服の紋章からして情報部の者だ。とてつもなく汗を流し落ち着かない様子だった。


「溝江君、どうしたのかね?」


上村が溝江と呼んだその士官はすぐに口を開いた。


「第3哨戒線を担当する第二十三日東丸からの通信です、通信後同船からは音信がありません。、東京より640浬の海域にて『空母二隻ヲ含む所属不明艦隊ヲミユ』と」

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