第44話 第二段作戦

「しかし乙型では搭載量が僅かです。そのため潜補型の一部を改造して重油タンクを貨物室に変えようと思っています。その為にどうしても太平洋中部から北部にかけてに展開している潜高型については数を減らさざる終えませんがよろしいでしょうか」


そのことについては既に軍令部で許可が出されているというか、外務省経由で要請されていることであり異論を唱えても意味は無い。


「ドイツからは開発中の音響魚雷や無線誘導爆弾の資料が届くそうだ。それにイタリアから魚雷艇の設計図が提供される予定になっている。」


福留が言う。


「果たして戦局に間に合うかどうかだが」


山本は呟いた。たった4カ月でも戦局が大きく動くことも考えられる。そこでずっと黙って聞いていた井上が口を開いた。


「第二段作戦の詳細を詰めるとはなんでしょうか?」


井上がそう尋ねたのを見て、一同顔をぽっかりさせ彼を凝視した。


「あれ、井上くんに伝えなかったの?」


山本は参謀の面々や艦隊司令官達を見渡す。皆、自分に責任はありませんというふうに辺りを見渡す。


「あのね、軍令部から米豪遮断作戦の方針で進めるって通告があったことさっき言ったけど。で、軍令部としてはポートモレスビーMOをまず最初に攻略する方向で連合艦隊にも検討してもらうように要請がきている。だからその点も含めて第二段階作戦の方向性と戦略について検討するのが本会議の目的だ、、既に大まかな作戦内容は決まっている。」


山本が分かりやすく説明する。井上には大体が完成した作戦計画書MO作戦が渡された。


米豪遮断作戦FS作戦なんて補給が続かず将兵が飢えるだけの意味のないことじゃないですか?」


井上は周囲の空気を全く読まずに公然と言う。皆、目を丸くして井上を“ああ、やっちゃったなあー”というふうに見つめた。山本は井上との付き合いは長いのでこういうのには慣れているが、流石に空気を読まないでこんなふうに連合艦隊の主要な面々が揃っている前で言われるとカチンとくる。


「それをなくすために空母部隊を大幅に増やして味方基地の制空権がないところでも陸上部隊を援護できる作戦が可能なようにしたんだろ!。」


山本が声を荒らげる。


「それに島伝いに侵攻するのに十分な基地航空隊の航空機も用意したじゃないか!」


「ですがあれは連合艦隊の要求には届かないものですし、それに陸軍の航空隊と協力する案も実現しなかったじゃないですか?。元々航空機関連の予算は陸海で半々なんだから合わせれば効果的に使えるのに、、、。」


と言って井上は作戦計画書を読み始める。どうやら攻略には第四航空艦隊が主力として参加するようだ。


「それは連合艦隊の長官どうこうではできない問題だし、そもそも.....。」


ここで山本、本題から話がどんどん逸れていっていることに気づき、一旦咳をしてから話し始めた。


「とにかく、どちらにせよ連合艦隊は軍令部が示した戦略の作戦に沿って実行する立場だ。ここで連合艦隊の管轄外の話をしても意味はないだろう。それより、第二段階作戦はポートモレスビーの攻略というのはもう不動のものだ。陸軍とも協力の協議が済んでいるし、君の私観で変えられる問題ではない、できる範囲で最大限勝つ努力をするのが軍人の務めだ。また、広い太平洋で無闇に米空母を探すよりも我々の前に来なければならないような状況を作り出すのも重要だろう。」


山本はそう言ったが井上には何かが引っかかった。


「となると作戦は当然米空母の抵抗や攻撃も考えているわけですよね?」


井上は作戦計画書をめくりながら問った。


「そうだが?」


南雲が答える。


「そもそもこの作戦の作戦目的は何ですか?」


井上は作戦計画書を読んで思っていたことを問う。


「それは....」


山本が答えを出しかねたのを見て井上は確信した。


「つまり軍令部は大型空母を失うのを恐れて消耗しても問題ない第四航空艦隊を護衛につかせた、しかしGF司令部は攻略作戦に合わせて敵空母が誘い出されてもそれを撃滅できるように大型空母を投入したい訳なんですね」


山本や参謀達が言葉に詰まったのを見て井上は主力航空艦隊の投入が軍令部から拒否されたのが分かった。

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