第41話 小沢、脱線する
「今は零戦がF4Fやハリケーンなどの敵戦闘機に対して優位ですがいずれ敵も後続機を出してくると思われます。空技廠が開発している新型艦戦は完成が再来年以降になりそうですがアメリカがそれ以前に新型艦戦を投入した場合、防弾性に欠けている零戦の不利は明らかです。これは空技廠の旧知と四航艦のパイロットからの零戦についての記載です〝零戦は機動性、航続距離、旋回性能において世界中のあらゆる戦闘機を凌駕しているが防弾性、急降下性能、発展性に欠けており一年もすれば時代から遅れてしまう〟と。新型艦戦の開発が米新型艦戦よりも遅れることも考慮して数の上での優勢を獲得すべく艦戦の比率を上げることは必須と思います」
井上は戦下手なのだが戦略面や革新技術を取り入れた面ではここに出席している誰よりも戦争の戦略について理解していた。ただ戦術戦闘が苦手で不確定なのでその戦略が必ずしも正しいとは言えないが。
「では戦闘機の比率を上げる方向で調整を進めていくことでいいか?」
山本は皆の顔を見渡したが誰も異論は唱えなかった。
「次にマレーでの反省についてだが、東洋艦隊撃滅の成功理由や龍驤の損失について小沢中将からの説明願おう」
「マレーで戦艦五隻、巡洋戦艦一隻、空母二隻の撃沈という戦果を挙げれたのはやはり基地航空隊の力が大きいと思います。戦力面では空母四、戦艦二しかない我が方の不利に対して英軍は7隻の戦艦、3隻の空母を推し、マレーの陸上機もありました。しかし航空戦力では我が方が第十一航空艦隊の三航空隊と四空母の艦載機を有効活用し波状攻撃が出来たのと英軍の空母の使い方が未熟なこともあって結果的に勝利をおさめられました。英軍は空軍と海軍の連携がうまくいってなかったということもありましたが」
小沢は一旦ためらった様子を見せたがまたしゃべり始めた。
「しかし、我が軍は陸攻22機、艦上機47機、これは陸上配備機も含めます、を失いました。搭乗員の戦死は200人以上です。知ってると思いますがパイロットは限られた兵のみがなれる鍛錬された貴重な存在です。海軍の方針が転換された1937年頃から早くも飛行予科練習生の母数は前年の6倍にと大幅に増やされましたがその頃の彼らは今、それなりの練度の搭乗員として成熟しているころです。南遣艦隊の空母のうち二艦は主に一世代前の旧式機を運用していました。それ故に搭載されていた旧式の無線機は劣化で廃品に、それなのに上にとりあってもいずれ新型機を配備するとかと言って、新しい無線機さえ供給されなかったではありませんか!、それに特型駆逐艦や睦月型は機銃の増加どころか搭載魚雷の酸素魚雷への転換さえも新造艦や既存の精鋭艦の整備だとかでまともに受け持ってくれませんでした!。搭乗員の戦死の原因の多くが無線機が無いことによる連携が出来なかったことにありました。...龍驤が沈んだのは私の失態です、」
小沢の怒鳴りつける言動に皆蒼白する。
「ですが、防げた死、我々の認識不足で失ってしまった命が数えられないほどあるのです。彼らには帰るべき家があり、待っている女房がいるのかもしれないのにです!。兵士の命とは何よりも貴重なものであって、なによりも重視すべきものなのです!」
山口と井上とそのほか何人は
「うんうん」
と涙ぐんでうなずいているが死こそ最大の栄光と考える黒島らはそれは天皇陛下への否定だ!と言おうとしたが山本が心に響いたのか涙ぐんでいるのをみて思いとどまった。
山本が小沢に見つめられていることに気づいて
「あっ、うん、そうだよね、兵士だって一人の人間であって人生があるんだもんね」
と目を潤ませながら返したが、そこで小沢は自分が言っていることが本会議の内容にそぐわないことに気づき
「戦術面の話からずれてしまいました、すみません、」
といってから話をつづけた。
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