北極海の死闘
第35話 異変
4月11日北極海
船団は既に4隻をUボートの攻撃で失っていた。遥か離れたマレーで東洋艦隊が壊滅したため埋め合わせのためにインド方面に艦艇が派遣され巡洋艦が不足していたから護衛は巡洋艦未満の駆逐艦、スループやコルベット、掃海艇などの艦艇だった。大西洋を渡る船団は戦艦や護衛空母を推すが、援ソ船団はそこまで兵力をさく重要性がないからだろう。しかし日米開戦により太平洋ルートがアメリカ西海岸からウラジオストクを結ぶ航路を通る船団が日本軍の通商破壊で全滅あるいは壊滅したため閉鎖され、北極海、そしてペルシア方面の輸送は以前にも増して重要になっていた。そしてどちらのルートも北極海はドイツ軍に、ペルシアは最近インド洋に進出してきた日本軍に脅かされていた。
なのに護衛艦艇がこれしかないとは...。数時間前から幾度もドイツ軍の偵察機と接触し、船団の兵員は今か今かと空襲にピリピリしていた。
「レーダーに反応あり!来たようです!」
各艦に
「敵目視!He111ではありません!複葉機のようです!」
見張り員がせっせと報告してくる内容を聞いて船団の司令官は疑問を抱いた。
いつもなら少なくても10機ほどの爆撃機が襲ってくるはずだが上空をかすめるのは偵察機、それも旧式の複葉機ばかりでこちらを攻撃する意図はない。Uボートはいつも通りだがこれも散発的で連携が取れていない。
何かが起きている...そう思わずにはいられなかった。
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同時刻、ソ連アルハンゲリスク
バルバロッサ作戦以降、定期的に港には空襲があったが戦局がソ連側に傾くと余裕も無くなったのかピタリとやんでいた。そんな中、久しぶりに聞く空襲警報はソ連兵の頭にいまいち響かなかった。地方なので、しかも最近空襲が無いせいで僅かにあった新鋭機も前線に送られ、飛行場にあるのはMiG1やヤク戦闘機といった最新鋭機では無いがYak-1などの1世代前の戦闘機が配備されていた。数は90機強と結構多くメッサーシュミットといったドイツ戦闘機とも十分に渡り合えるはずだった。
そのうちの第3中隊を率いるエフレム・イワンは滑走路から愛機を離陸させ後続機が付いて来るのを見たあと、前を見てぼやいた。
「やけに爆撃機の数が多いな」
そのとおりドイツ軍はざっと見ただけで40機以上のハインケルHe111やJu 88の梯団3個をなして、更に戦闘機が60機ほどいた。防ぎきれるだろうか。自分たちの中隊はまず敵の戦闘機隊を攻撃し他の中隊が爆撃機を墜とす時間を稼ぐことを命じられていた。
「高度8000に上昇し上方から強襲する。各機ついてこい!」
レンドリースで供与された部隊標準装備のアメリカ製レシーバーに声をかける。中隊の18機が上昇すると敵戦闘機も20機ほど上昇してきた。Bf109とやり合うには正面からでは無理だ。はっ、と思って後ろを振り返ると後続する機の更に後方の空に無数の黒点が海面スレスレを飛んでいるのを認めた。Bf109に海を回ってくるほどの航続距離はないはずだ。その思考が回転を続けたのは上方からきた弾丸が彼の脳天を撃ち抜くまでだった。やがてアルハンゲリスクの周辺に黒煙が立ち込め始めた。
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