第30話 超速射砲軽巡

「敵沿岸砲発砲!」


砲撃の際の閃光は阿賀野の艦橋からも見えた。十戦隊は最大速力の35ノットでコレヒドール島に斜めに接近していた。


「回避は不要だ。30センチクラスの砲がこの距離で高速で移動している目標に命中させるのは不可能だ。そもそも敵は陸軍だから砲員は静止目標にしか射撃経験がないだろう」


と三川は言ったものの百数十メートル離れたところに着弾の水柱が上がった時には思わずヒヤリとした。1発でも被弾すれば自艦の15センチ砲にも耐えられない装甲ぐらいしか張られていない阿賀野型はひとたまりもないだろう。だが分かったことがあった。今十戦隊はコレヒドール島沖20キロを同航している。そこで沿岸砲が射撃を開始したということは配備されている大型砲は相当古い型なのだろう。金剛型の35㎝砲は最大射程35キロだ。引き付けて撃ったことも考えられるがこの精度は旧式砲であることを裏づけている。そしてこの距離は阿賀野型の主砲の射程内だ。


「左舷砲戦用意!」


他の三艦へ電信が飛び、砲術へも伝令が飛び砲塔内で各人員が事故防止の確認、機関科では冷却水の水圧機の状態を確認する。


「1番、2番、3番戦闘用意よし」


の報告が届く。そして砲術指揮所の羅針盤に砲術員が忙しく風向きや砲弾の研磨状態、弾薬庫内の温度などを踏まえ計算し調整した座標を入力する。3基の砲塔が左舷に旋回し、砲塔内の全自動揚弾装置が砲弾に続いて薬莢を入れたのを砲員が目視で確認した後、自動で密閉される主砲尾栓の最終確認を行ない、砲塔長が電話で砲術指揮所に知らせる。目視確認は最初だけだ。そして各艦の砲術指揮所は艦橋に報告し、その報告は十戦隊司令部のある阿賀野の艦橋に順次届く。


そして三川は言った


「各艦射撃開始!」


阿賀野型の主砲は最大で毎分20発の速射力を誇る。発射のブザーが鳴り響き砲口から閃光が煌めく。ほんの僅かに遅れて轟音と振動が艦橋にいる者たちに届く。重巡の20センチ連装砲5基の斉射を経験したことある三川にとって6門の15.5センチ砲の射撃は幾分小さく感じる。だが、...早いな。三川はそう思った。命令が後続の三艦に届き射撃を開始する前に阿賀野は第2斉射を放っていた。阿賀野の第3斉射と後続三艦の第1斉射はほぼ同時だった。速射のため砲弾の初速は1200kmを超えており、装薬も大量消費する。その分砲身命数は僅か200~250発であった。これは10分打ち続けてたら主砲が使えなくなってしまうから注意が必要であったし、連射力が高い分大量の機械を使用しておりこの15.5センチ連続速射砲塔自体が通常の15.5センチ3連装砲塔の2.5倍の価格であったから必ずしも性能面だけでは評価できない。そのため阿賀野型の砲身交換用の専用の輸送船がいる(前述)。また、大量の装薬の爆発に耐えれる砲身構造は製造にかなりの時間とコストがかかり予算を喰っていたし、全自動の揚弾装置は莫大な電力を消費するため、通常なら砲塔直下にある発電機で賄うところを更に3基の発電機を設置して電力供給をしている。阿賀野が第5斉射を放った直後にコレヒドール島に爆炎が立ち上り、炸裂音が伝わってきた。3秒おきに4隻の放った24発が着弾しているため正直コレヒドールの米軍が可哀そうだと思うぐらい凄まじい爆発だった。60斉射...ちょうど阿賀野が撃ち始めてから3分半後ぐらいにはコレヒドールの周りは立ち上る硝煙と粉塵で見えなくなっていた。沿岸砲は完全に沈黙していた。

三川は


「撃ち方やめ」


を命令したが速射砲なので弾道上にあった数十発が遅れて着弾した。

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