第29話 水偵爆撃隊
「一式水偵一番機、発艦します!」
艦橋脇のタラップで双眼鏡片手にあたりを眺めていた見張り員が報告した。
「初陣に相応しい天候ですね」
副官の池内少将が雲よどんだ空を見て言った。南方ではスコールがもっと激しいらしいが比島近海はそこまで荒れていない。雲は上空からの目から第十戦隊を隠してくれ
るだろう。
「6機ともに発艦終了。矢矧、能代、酒匂の一式水偵も全機発艦完了しました」
電信員が報告する。
「ご苦労、ではいよいよか」
三川はそう言うと席をたった。
「進路、マニラ湾。旗艦進行方向、60°に転舵」
「面舵一杯!」
艦長の鹿沼が直ぐに命令を出し航海長が復唱する。命令は電信で各艦にも打電され、後続する三艦も舵を切る。
「おもか~じ、いっぱ~い!進路60°!よ~そぉろ~!」
徐々に舵が効きはじめ白波が弧を描く。満載排水量9千400トンの巨体が少しだけ右に傾き、乗組員は手すりに摑まる。そして十戦隊の前方には附属の第四二掃海隊の五島型敷設艇4隻が傘の形を作って機雷を警戒している。五島型は阿賀野型を筆頭とする船体共有計画の600トン型だ。阿賀野4艦は運動性が同じ同型艦なので十戦隊4隻が回頭するのはまるで一つの生き物の様だ。
能代3番機の機長であり、24機の一式水偵を統率する編隊長である三友は機上からそれを見てそう思った。
既に編隊は整っていた。コレヒドールの電探基地は開戦後に第四航空艦隊が叩いていたが他にまだ残ってる可能性もある。十戦隊の砲撃に先立って電探の有無を確認し搭載爆弾で可能な限りコレヒドール要塞に損傷を与えるのが三友に課せられた役割だった。十戦隊はコレヒドール、フォートドラムの35㎝砲を警戒してとりあえずコレヒドール沖40kmを航行していた。各艦6機づつの中隊が3つでコレヒドールへの爆撃は開始された。阿賀野隊6機は爆雷を積んで対戦警戒をするためコレヒドールへの爆撃には参加しない。一式水偵に搭載されているのは60㎏爆弾3発または250㎏爆弾一発でこれは威力偵察が目的だった。
事前の偵察結果でコレヒドールには目立った対空設備はないことが確認されていたが、バターンが近いうちに一四軍の手に落ちることは誰の目から見ても明らかであったためコレヒドール籠城するために設備が増強されている可能性があった。雲の切れ目からはコレヒドール島が見えている。
「矢矧隊、突撃開始しました!」
レシーバーから副編隊長の相模の声が響く。矢矧隊の6機はまず60㎏爆弾で対空砲を制圧するのだ。矢矧隊隊長機が機体を翻し急降下を開始し、それに続いて5機が降下を開始する。地上からはこの6機の一式水偵が見えているはずだが反撃は無い。1番機が投弾をし、迫撃砲座と思わしき場所に着弾した。露天式の迫撃砲は付近にいた兵員とともに吹き飛ばされた。続けて17発が至る所に着弾し、コンクリートで覆われた砲台を除く迫撃砲や臼砲、兵員畜舎を吹き飛ばす。最後尾の六番機が離脱し始めた頃になってやっとまばらだが3インチ砲が仰角をめい一杯に上げて対空射撃を開始した。もちろん迫撃砲だ。命中するわけがない。反転した一式水偵が13ミリ機銃を撃ち込み沈黙させる。
「酒匂隊、突撃します」
酒匂隊の一式水偵が急降下を開始した。6機の一式水偵がコンクリートで堅められた沿岸砲要塞に二五番(二五番通常爆弾二型)を叩きつける。100kgほどの炸薬しかない二五番の炸裂でコンクリートが壊れることはないが、外れて着弾した二五番は周辺の兵員や機銃座を容赦なく消し去る。6発だけなのでそこまで効果はなかったようだ。その時、島の西側の方から爆音が轟いた。水平線の方を見ると十戦隊の4隻の艦影がこちらに向かってくるのがはっきりと分かった。十戦隊を射程に捉えた12インチ砲や14インチ砲が射撃を開始したのだろう。
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