初戦
第一〇戦隊初陣
第27話 前章
比島攻略に従事していたのは巡洋艦を中心とする第二艦隊であり、第七戦隊の最上型が真珠湾攻撃の第一、第二航空艦隊、南遣艦隊に引き抜かれ第六戦隊の高雄型4隻はマレー方面に陸奥、長門の護衛として出撃していた。
この時点で第二艦隊には重巡六隻が残っていたが利根型は第四航空艦隊の井上司令の要望でそちらに編入されたので四隻となってしまった。その代わりに阿賀野型軽巡洋艦四隻の第十戦隊が第二艦隊に編入されたとういう訳だ。
第十戦隊の司令長官は三川軍一中将である。過去には戦艦霧島や重巡鳥海の艦長を歴任し、その後は第五戦隊や第七戦隊の高雄型や妙高型の重巡洋艦を戦隊司令官として指揮して、今に至っていた。
海軍兵学校38期卒で、同期には史実ではレイテ沖海戦で第一遊撃部隊を指揮しレイテ湾目前で反転の判断を下した栗田健男やサボ島沖海戦で戦死した五藤存知などがいる。歴代の巡洋艦を知る三川にとってこの阿賀野型は何とも摩訶不思議な艦だった。
「司令官、第二艦隊より命令が来ました!...」
阿賀野の艦橋で外を眺めていた三川に電信員が伝令に来た。
「‘‘一四軍ノ比島攻略ニテ多数ノ砲ヲ備エタコレヒドール島並ビニフライレ島ハ相当ナ障害トナルトミトム、一四軍ヨリ非公式ナガラ支援要請ガトドイタ。第一〇戦隊ニコレノ無力化ヲ命ズル’’。以上です」
電信員が読み上げる。
「そうか...やっとこの
三川が言うと、参謀や副官が立ち上がり、喜びの声をあげた。今は1月18日、正午過ぎである。真珠湾の開戦から1カ月以上が経過していた。
元々陸海の連携作戦はそうは行なわれない。第2艦隊は航空攻撃だと目立つから第十戦隊に命じたのだろう。参謀らはさっそく作戦を立案するため資料の準備にかかっている。三川は今までの数日に感じられる軌跡を思い出していた。
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まず比島作戦は開戦直後の8日明朝、第11航空艦隊の台湾の基地から発進した零式陸攻、零戦100機前後ずつの攻撃隊の米飛行場への攻撃で火ぶたが切られた。
後の蘭印攻略の為の関門になるフィリピンにはイバ、クラーク両基地に戦闘機100機、爆撃機50機という戦力が存在していたため、それを撃滅する必要があったからだ。レーダーで攻撃隊の接近を事前に察知した米軍はP35、P40など60機を向かわせた。台湾からやってくるのは全て双発以上の攻撃機で単発の戦闘機は航続距離が足りずフィリピンまでは来れないと極東陸軍司令部は判断したからだ。これは世界的な戦闘機の航続距離の基準から言って当然の判断だった。
しかし、日本が開発した零式艦上戦闘機は増槽ありで3000㎞近い航続距離を有しており、性能差も著しかった。それに加えて零式陸攻の最高速度はP35の速度よりも上でP35には追撃が不可能であった。60機の米戦闘機は112機の零戦のうちの制空隊54機の反撃をくらい逆に不利な立場に追い込まれ、加勢した直掩隊のうちの30機の零戦の攻撃で完全に散り散りになった。
極東陸軍司令部はこれに驚き離陸待ちだった70機近い全戦闘機を急いで離陸させようとするが、時すでに遅く、最高速度で突っ込んできた零式陸攻の500キロ爆弾、三式爆弾による爆撃でクラーク、イバ両基地の滑走路、掩体壕、格納庫が爆砕され、そして駐機していた機体が次々に炎上し、あるいは爆発の破片で切り裂かれ飛行機のそれと分からぬまでに極東航空軍の航空機は破壊されつくされた。
掩体壕にいたものや奇跡的に被害を免れ、飛行可能な機体も相当数あったが、滑走路には500㎏爆弾の爆発によって大穴が空いたり、駐機していた機体の破片が無残にも散らばっていてとても離陸はできなかった。
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