第25話 空母奇襲
低空から接近する雷撃隊につられ、30機以上いた日本側の戦闘機は低空で英戦闘機と激しい乱戦を行なっておりこの時艦隊の高空を警戒していたのは長門、陸奥の対空電探のみであった。だが対空電探は敵機の大まかな位置は分かるが高度は分からない。あいにく英軍の後続する雷撃機だと両艦とも勘違いしていた。それはその筈、今日の戦いで日本側を襲った英側の対艦攻撃機は全て雷撃機だったから仕方がない。ソードフィッシュなどには爆装もできたが水平爆撃は命中精度が著しく低く、爆撃ならフルマー戦闘機の方がむいているが、戦闘機は日本側の戦闘機と戦っているため雷撃機しか有り得なかった。この油断と思い込みがブラックバーン スクア急降下爆撃機18機の艦隊上空への進入を許してしまった。戦闘機は低空におり迅速な対応は不可能だ。空母直掩の重巡最上、熊野の主砲が長門、陸奥の16インチ砲と共に対空射撃を開始する。最上型重巡は名前こそ重巡だが主砲は15.5㎝連装速射砲5基である。これは元々軽巡だった最上型の主砲を20.3㎝砲に交換し重巡にするという計画が上がった際、海軍は航空主兵装主義に移り変わっていた真っ最中であり、ちょうど試作の15.5㎝速射砲が完成したという事情もあったため防空巡洋艦に改装されたからだ。重巡という分類なのは両用速射砲の存在を秘匿するためであり、ただ連装になっただけなら15センチ砲とは誰も考えなかった。連装なのは速射砲の砲身冷却の装置の肥大化と砲弾装填装置の高速化に伴う大型化、対空射撃用に電探に連動できるよう様々な機器が追加したことなどが理由で砲塔のサイズ的に連装が限界だったからである。4艦の最上型は当初第一、第二航空艦隊に集中配備される予定であったが、古鷹、青葉型がそれに変わって配備されたため余った2艦は南遣艦隊に配備されたのだ。だが最上型は電探の搭載がまだであり、速射砲も最新式ではなく開発中の時の試作増加品なのでハワイ沖でも同様期待された活躍はできなかった。だがこの主砲のデータが速射砲の開発を数年早めあの軽巡の完成を前倒しできたことに変わりはない。また、同じく対空巡洋艦の利根型が主力航空艦隊に配備されていたことも大きい。南遣艦隊には元々第4戦隊の高雄、愛宕、鳥海、摩耶が編入されていたため重巡は6隻となり、第4戦隊が第2艦隊直属で参加する予定だったフィリピン攻略には代わりに阿賀野型4隻が投入されることになった。放たれた三式弾は時限信管で編隊の周囲で同時爆発した。大小36発の三式弾の子爆弾6万発以上がスクアの全方向で炸裂し、数機がよろめく。だが炸裂位置が少しづれており被撃墜はなかった。15.5㎝速射砲が続いて射撃するが急降下爆撃隊は艦隊の直上に到達し、主砲での射撃は不可能になってしまった。各艦の高角砲、機銃が火を噴き3機が四散する。15機のスクアは祥鳳に4機、隼鷹に5機、飛鷹に6機、急降下するが、たちまち高角砲で隼鷹を狙っていた1機が鉄片に変わる。普通は一艦に編隊で集中攻撃するのだが、先の高角砲の攻撃で編隊隊長機が撃墜されてしまい各機別々に標的を選択していた。編隊の分散は命中率の低下を意味する。護衛艦艇の対空砲火はもっぱら、艦隊で一番大きい隼鷹、飛鷹を狙っている機に集中砲火を浴びせ、飛鷹を狙っていた2機、隼鷹を狙っていた1機がまたしても撃墜された。ここで隼鷹を狙っていた3機は焦ったのかかなり高い高度で爆弾を切り離し離脱した。更に飛鷹、祥鳳を狙っていた機が一機づつ撃ち落されたがここで残りの敵機は投弾した。ヒューーという爆弾が空気を切り裂く音が途切れ、飛鷹の周囲に水柱2本が立つ。突如、飛鷹の甲板上で稲光が走ったように閃光が迸り、後から爆風と炎、黒煙が上がった。被害はこれだけだと思われた。祥鳳を狙った爆弾は3発ともかわされ水柱が立っただけだった。次の瞬間、驚くべきことが起こった。隼鷹を狙っていた機が離脱時に投弾した爆弾の一発が海面に触れた後、3回海面を跳躍し、龍驤の舷側に衝突、起爆したのだ。それを見ていた隼鷹の艦爆隊員はすぐにそれがスキップボミング、反跳爆撃だと悟った。たまたま水平飛行で離脱したスクアが投弾した爆弾の角度が絶妙に水面を跳躍したのだろう。だとしても奇跡、いや日本側にしては悪夢だった。被弾した龍驤は被弾破孔から海水が格納庫内に浸水、右舷に大きく傾き甲板上の航空機が滑り落ちていった。元々軍縮下で排水量を押さえるべく建造された本艦はトップヘヴィー気味だった。格納庫は大きな空洞であるがゆえに浸水はさらに勢いを増し、艦長は総員退艦命令を出した。日が沈みかかり海面が紅に染まっていた。同じころ、レパルス、アークロイヤルが轟沈し、残存艦艇は一同シンガポールに退避していた。
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