第23話 三神、二度目の出撃
三神の九九艦爆が遁走する英艦隊の上空に達したとき空母の一隻は沈みかかっており、もう一方はダメージコントロールが功を奏したのか炎上しておらず、全速力で撤退していた。そしてその空母の横腹に寄り添うように一隻の戦艦がピッタリと航行していた。艦形からしてレナウン級巡洋戦艦だろう。そこに零式陸攻4機が投雷をした。空母は必至の回避行動をするが舵が被弾でやられたのか転舵がぎこちない。だが魚雷は空母の横の戦艦に命中したようで水柱が2本上がる。空母に寄り添うレナウン級はもろに魚雷を喰らって受け止めたのだ。その自己犠牲精神に三神は思わず涙が出そうになる。魚雷は空母には届かなかった。制空隊が基地航空隊の零戦と協力して敵機を追い払い、艦攻隊は低空飛行で敵に接近、そして必至に転舵する敵空母に、17機の急降下爆撃機隊が狙いを定める。本日3度目の攻爆共同攻撃だ。敵空母は全艦載機を退避させたようで遠方にはマレーの方向に飛び去る編隊が見える。それと入れ替わりで何か接近してきた。フルマーとハリケーンを全滅させた零戦隊はF4Fを押さえつつそちらに向かう。
「シンガポールのF2Aだろうな」
高橋が呟く。
編隊長の合図で三神は操縦桿を倒し機体を急降下させる。レナウン級からの対空砲火は乏しく、空母も殆ど機銃を撃ってこなかった。
「てっ」
操縦桿を引き海面すれすれで機体は水平になる。日本の急降下爆撃は編隊機が1列に次々と投弾していく方法だった。これは前の僚機の投弾を確認して修正できる反面、進路が分かりやすく一点に対空砲火を集中させられると危険というリスクがあった。
一瞬で後続機が火だるまになったのは三神が投弾した爆弾が空母の右舷に着水した数秒前だった。
「敵機後方っ!!」
高橋は急いで旋回機銃を組み立てる。予備機なので大抵の部品は外されていたため組み立てる必要があった。続けてもう一機が翼をもぎ取られ墜落した。他の機はそれを見て投弾を諦め爆弾を投棄し離脱する。しかし敵機は容赦なく僚機を叩き落とす。よくよく上空を見ると制空隊と零戦隊が敵機とドッグファイトをしていた。こちらは戦闘機が20機ほどだが敵機は今急降下爆撃隊を襲っているのも含めて30機以上いるようだ。一機、また一機と火を噴いて落ちていくのは日の丸の付いた機の方が多い。
「嘘だろ...零戦が負けるなんて」
三神が思わず漏らす。
明らかに味方の方が劣勢だ、敵の方が数が多いとはいえ...。今日の戦闘でも零戦は5倍以上の敵機を相手に互角に戦っていたことさえあった。だが今、零戦は敵機に押されている。敵機はよく見るとバッファローでもハリケーンでもワイルドキャットでもなかった。楕円翼形の主翼、P40に似た機首、スピットファイアだ!。龍驤の編隊長がドイツの戦闘機を打ち破った強敵だと話していたのを三神は思い出した。7.7㎜機銃8丁と威力は貧弱だが数が多い。それは防弾装備が殆どない零戦には十分だった。制空隊は残り10機を切り、散り散りになった。急降下爆撃隊は必至に離脱しようとするが旧式の九六艦爆は一機残らず全滅し、残る九九艦爆7機は少しづつ数を減らす。だが急降下爆撃隊を追撃しているのは5機ほどの敵戦闘機だ。ここはイチかバチか編隊長は編隊を散開させた。三神の機には一機のF2Aがしつこくついてきた。高橋の7.7㎜機銃はなかなかあたらない。そこで三神はフラップを上げ速度を急低下させた。体にGが重くのしかかる。追撃していたF2Aはいきなり減速できず九九艦爆の上を通り越す。カチッ。三神は操縦桿のボタンを押す。機体左右の7.7㎜機銃が敵機へと迸る。打撃音が響くが敵は特に損害を受けなかったようだ。今度は敵の番だ。くるりと反転し後ろにつかれる。高橋は必至で後部旋回機銃を撃つ。だが容赦な敵は4丁の機銃をぶっ放す。7.7㎜弾が翼に突き刺さり機体は揚力を失った。
「着水するぞ!」
三神は操縦桿を引き起こし、高橋は備品などを回収する。ダイヴブレーキはまだなんとか生きてたので幸い浅い角度で着水することが出来た。だが予備機のこの機体に救命ボートなんて積んでいるわけがない。機体が沈む前に急いで海面に飛び込む。救命胴衣は飛行服の上に着ているのでとりあえず飛行服が水を吸う前それを脱ぎ飛行服を外してから着る。F2Aは上空を旋回していたが他の獲物を見つけたのか去っていった。かなり近くに英軍の駆逐艦がいるが自軍の兵の救助をしているようだ。イギリス人の事だ、捕虜にされたら生きては還れないだろう。友軍に救助されるといいが...。しばらくして水平線上で黒煙が上がった。それがレパルスの最期だと三神らが知るのは友軍の駆逐艦に救助された時であった。
そして南遣艦隊では最後の戦闘が展開されていた。
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