第21話 三神の受難
三神がやっとの思いで乗機を艦隊の上空に持って来た時、被弾部分は更に裂け機体が安定しなくなっていた。
「龍驤に着艦は無理そうだ.....。あの近くの隼鷹か飛鷹に着艦するしか無さそうだな」
隼鷹型航空母艦は商船改造だが元が大きく、飛行甲板は全長210m、全幅27mあり龍驤の160m程しかない飛行甲板に比べれば着艦は相当容易だ。弾薬や整備の問題で出来れば母艦の龍驤に戻りたいがここは仕方がない。三神は近い方の隼鷹型に着艦しようとした。着艦フックがワイヤーに引っ掛かり制動機が衝撃を受け止める。甲板わきの作業員が直ぐに機体を動かし端へ移動させた。どうやら飛鷹の方だったようだ。整備員に手短に説明した結果、この機体は飛鷹では修理出来ないし整備も出来ないので捨てるしかない、と言われたのはショックだった。だが上空には今にも着艦待ちの機が旋回している。愛機の九六式艦爆は甲板に居た他のパイロットの手を借りて10人がかりで押して舷側から海に落とした、もうこの海戦で自分たちの出番はないだろう。甲板では第3次攻撃隊の準備が進んでいた。
甲板の隅のタラップから搭乗員待機室に降りようとしたとき一人の士官が話しかけてきた。
「おい、そこのおまえ。九九艦爆の操縦できるか?」
一瞬何を言われたのか戸惑った。
「一応訓練で乗ったことはありますが.....」
するとその士官の後ろから高橋が現れた。
「予備機の九九艦爆が有るらしいんですけど搭乗員がいないようで、...操縦できますよねぇ?(圧)」
また出撃できるならうれしい限りだ。
「ええ、もちろんできますよ!」
さっそく飛行帽を取り出す。
「では甲板後部で駐機している機があるから、それに乗れ。もう伝えておる」
「感謝します!」
士官は他の仕事があるのかとっとと去って行った。
「よっしゃー!、最新鋭機だぜ!、被弾したのが幸運だな」
高橋もブーツを履く。飛行甲板の後方の方に向かうと一機の九九艦爆が発動機の試運転をしていた。甲板上では20機あまりの発動機のエンジン音がけたたましく響いていた。飛鷹の右側を航行する小さな駆逐艦は噂の橘型駆逐艦だろう。龍驤と祥鳳には松型駆逐艦という対潜、対空戦に重点を置いた駆逐艦が5隻護衛として配備されていたが、この橘型は設計、施工を簡素化、更に量産性を高めた型らしい。飛行機乗りなので駆逐艦のことはよく分からんが、3ヵ月で建造できる駆逐艦とは一体どういうものなのか...。28ノットと駆逐艦にしては低速だが隼鷹型は元が豪華客船なので低速だから十分に随伴できた。三神は胴体横の足踏みに足をかけ操縦席に座る。爆弾は250㎏爆弾2発だ。そのときだった。
「敵機来襲っー!!」
見張り員が発動機の音に負けない声で叫んだのは三神の耳にも届いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます