第13話 サイゴン基地

サイゴン基地、第三滑走路。格納庫から滑走路上の待機位置に移動していたのは零式陸攻だけではなかった。零式陸攻よりも一回り大型の機体、栄でも熱田でもない太く、頑丈な発動機〜ドイツBMW製のBMW 801エンジンをライセンス生産した「遥」発動機2基、直線的だが優美に湾曲する主翼。


「頼んだぞ、」


地上から見送る元山海軍航空隊を率いる前田孝成大佐は他の待機している搭乗員、整備員と共に手を振っていた。13機の十五試双発陸上爆撃機は各滑走路から離陸していった。エンジン音が聴き慣れた零式陸攻とは違って図太い。この一五試陸爆は正式採用前だが日米開戦が不可避となったことから試験機が増産されて一部の部隊に優先的に配備されていた。正式採用されるのはおそらく昭和17年以降だから二式陸上爆撃機となるであろう。零式陸攻に続く2年ぶりの後続機だ。続いて離陸するのは既存の零式陸上攻撃機と九六式陸上攻撃機だ。零式陸攻は1939年にドイツよりハインケルHe111の設計図を海軍が赤城、加賀の設計図、その他諸々をドイツ国防軍に提供するという形で交換されたその設計図を元に空技廠が改変を加えた一応の国産機だ(ドイツ海軍だけに利益があるこの取引にゲーリングは猛反発したが日本側が更に祥鳳型航空母艦の設計図と造船技官を派遣すると言い、総統も大喜びしたため仕方なく応じた)。当初海軍は十二試陸上攻撃機(史実の一式陸攻)を開発していたが、He111の方が搭載量に優れ、更に当時十二試陸上攻撃機の開発が防弾装備の面で難航していたことから計画を中止しより高性能な零式陸攻の採用に踏み切った。本家では防弾製が疎く、貧弱な機体だったが零式陸攻は搭載量を削減し防弾装備を追加したためその点は解消されている。海軍の提供によって、陸軍では零式重爆撃機として採用された。


『零式陸上攻撃機』

(諸元)

全長: 17.1 m

全高: 4.6 m

翼幅: 22.5 m

動力: 「輝」ー液冷V型12気筒エンジン、986 kW (1,450 hp)× 2

乗員5名

(性能)

最大速度: 473 km/h

航続距離: 3,500 km

(武装)

旋回式13.2mm連装機銃3基、固定式4丁、

爆弾最大1,600kg又は魚雷2本

(製造数)

1941年11月の時点で1600機

(連合軍コードネーム)

ベティー[Betty]、なお陸軍版はベス[Bess]


(概要)

ドイツより設計図、実機を提供されたHe111を元に防弾装置の追加などを施し、若干のエンジン出力向上によって速度も上がった。搭載量が多い反面後部上方は機銃座の死角であったり、「輝」エンジンの製造に手間がかかるなどと欠点も多い。航続距離も搭載量と防弾装備により犠牲にしておるが(というより元のHe111が2800キロだったのだからむしろ向上している。これはインテグラルタンクを改造で追加したことによる)総合的には傑作機とも言える。

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