第12話 制海権

白波をたて進む巨艦は堂々の威容だった。それも今は艦艇を30隻余りも指揮しているのだ。トーマス・フィリップス 東洋艦隊司令官は感激の気持ちを押さえきれなかった。この日、彼は生まれて初めてイギリスに生まれて良かったと実感した。旗艦のネルソンの艦橋で彼は艦隊を見渡していた。艦隊はシンガポールから最も遠く敵の上陸司令部が置かれているとされるシンゴラを目指して進んでいた。


「司令官、駆逐艦の一隻がなにやら潜望鏡らしきものを発見したとのことです」


電信員の一人が報告する。


「らしきとはなんだ!」


「哨戒機を向かわせるよう指示してあります」


副官が言った。


上空を警戒していたソードフィッシュがすぐさま駆逐艦の方に向かう。少し上空を旋回した後、50キロ対潜爆雷が2発立て続けに投下された。水柱が立ち、海面が白く泡立っている所に駆逐艦が急行し爆雷を叩きこむ。油の塊や鉄塊、布切れなどが浮いてくるまで2分とかからなかった。


「さすがはロイヤルネイビーだ。引き続き対潜警戒を怠らないように」


「はっ!」


その後、東洋艦隊は更に3隻の潜水艦を撃沈し、航路上には油と鉄塊が浮くのみであった。そこに日本軍の水上偵察機と思われる機体が飛来したのは9時間後の12月10日午前3時半のことであった。無論潜水艦を撃沈している時点で日本軍に位置が判明しておることは分かっていたのだが、フェアリー フルマー2機が迎撃に向かった。この時点で東洋艦隊は3つの群に別れており、鈍足のリヴェンジ級4隻(最高20ノット)のZ部隊、前者よりは高速だがやはり鈍足のネルソン級2隻(最高23ノット)、空母ハーミーズのZ2部隊、そして巡洋戦艦レパルス、空母アークロイヤル、インドミタブルのK部隊がそれぞれ20キロの距離をおいて単縦陣で航行していた。しかし大西洋戦線に駆逐艦を引き抜かれており、やや旧式艦なのが特徴である。この時フィリップスは東洋艦隊の勝利を信じて疑わなかったのであった。


英国部隊編成

【Z1】

〈戦艦〉

リヴェンジ

レゾリューション

ラミリーズ

ロイヤル・サブリン

〈巡洋艦〉

ダナイー

ダーバン

〈駆逐艦〉

8隻

【Z2】

〈戦艦〉

ネルソン

ロドニー

〈航空母艦〉

ハーミーズ

〈巡洋艦〉

ネプチューン

アポロ

〈駆逐艦〉

6隻

【Z3】

〈巡洋戦艦〉

レパルス

〈航空母艦〉

アークロイヤル

インドミタブル

〈巡洋艦〉

サウサンプトン

フィービ

ダイドー(防空巡洋艦)

〈駆逐艦〉

5隻

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