第11話 小沢の方針

甲板からまだ日の出前の空に次々と航空機が発艦してゆく。少しづつ空は橙色にそまっていた。


「索敵機20機発艦終了しました」


航空参謀が報告する。


「了解した。引き続き艦隊の防空は警戒するようにに。潜水艦からの続報はまだか.....」


小沢は溜息をついた。マレー沖で東洋艦隊英国艦隊の動向を探るべく哨戒していた伊65から無電が入ったのは1時間前の12月9日午前4時15分、『敵「リヴェンジ」型戦艦三隻、「ネルソン」型戦艦一隻見ユ 地点「コチサ」一一 針路三四〇度 速力一四節 一五一五』との報告だった。

小沢が知る限り、シンガポールには戦艦ネルソン型2隻、リヴェンジ型4隻、レナウン級1隻、空母ハーミーズ、アーク・ロイヤル、イラストリアス型1隻が配備されていたはずなのでこれらの位置を知っておきたかった。


「まず南遣艦隊のみでの対抗は不可能なので、本隊と合流したいところですが.....。かなり離れているので合流には1日以上かかるでしょうから我々だけで対抗するしかなさそうです」


参謀長の澤田虎夫が言った


「長門、陸奥.....、ネルソン型はこの2隻と同時期のビック7の2隻なのでその他に5隻の戦艦が加わるとなるとかなり不利ですが、陸攻と空母艦載機、水雷戦隊、潜水艦を上手く使えば勝てない相手でもないですよ」


砲術長が言った。ビックセブン、それはワシントン軍縮下で建造された7隻の16インチ砲搭載艦である。各国海軍の象徴とされ、英国はネルソン、ロドネー、米国はコロラド、メリーランド、ウェストバージニア、日本は長門、陸奥である。


「確かに敵艦隊の進路上には潜高型が3隻ほど配置されているが、敵は空母3隻もあるんだろう。あの辺りは浅いから危険じゃないか?」


と小沢。


「潜高型は比較的小型ですが、確かに英軍の大西洋でのUボートとの戦いは侮れませんし、空母の対潜哨戒機もありますからね。潜水艦とはそういうものです」


元潜水艦乗りの漆原次官が答える。


「潜水艦隊には是非とも戦果を上げてほしいが、我々はどうするのかね」


参謀の一人が指摘する。


「まず陸攻と潜水艦で敵戦力を漸減した後、空母戦の末、長門、陸奥が戦いを挑むのがもっともだ」


澤田が言う


「基本的には参謀長の言う通りだ。既に元山海軍航空隊、美幌海軍航空隊、鹿屋海軍航空隊が出動準備をしている。新鋭機に中国戦線でのベテラン揃いだから2、3隻は戦艦を沈められるだろう」


小沢が期待して言った


「問題はその後ですね。潜水艦と陸攻で4隻は沈められるとしても6隻前後の戦艦、空母が残りますからね。敵の攻撃目標はシンゴラに上陸中の陸軍部隊ですが我々南遣艦隊が立ち塞がれば当然さきにそれを潰してから脅威を無くした上で陸上部隊を攻撃でしょうね。それと敵空母に攻撃隊を出しましょう」


航空参謀が言う


「ああ、もう攻撃範囲内だ、問題ないだろう。では決まりだな。それと艦隊戦に際して敵の空母戦力を削いでおかないと後々面倒だ。陸攻隊には空母も叩いてくれるよう要請しておこう」


小沢が退席しようとした。


「小沢司令、陸攻隊では間違いですよ。正しくは攻爆連合隊です」


「ああ、そうだったな。いまいちしっくりこないが.....」


航空参謀の指摘をよそに小沢は艦橋の司令塔に向かった。艦歴20年を超える長門は所々に歴史を感じる傷があるが歴代の旗艦だけあって通信設備は充実している。南遣艦隊はその元連合艦隊司令部をそのまま司令室として使用していた。エレベーターに乗り小沢は司令部の面子と艦橋上部の司令塔へ向かった。

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