第7話

ウィリアム・ハルゼーの乗艦旗艦エンタープライズ率いる第8任務部隊は日本軍の水偵と接触した後、一旦南下していた。ハワイ近海の米空母はこのエンタープライズとレキシントンの二隻のみであり4隻以上の空母を推する日本艦隊に対抗不能と思われたからだ。

「太平洋艦隊司令部からの応答ありません。ですがパールハーバーの艦艇からの通信は来てます」副官のマーク・ジーザスが続けて読み上げる「被害:戦艦6隻沈没、基地航空隊壊滅、湾口施設被害、。なお陸軍基地航空隊の攻撃により敵空母一隻大破」空母を撃沈したことは無線傍受でハルゼーも知っていた。相当慌てていたのか平文で通信は来ていた。「戦艦全滅か.........クッソ!」被害の詳細はまだ分かっていなかったが戦艦だけでも全滅ということは他の艦艇も相当な被害を受けているのは想像が付く。「敵は一旦北上しているそうですが、再び攻撃してくるでしょうか?」艦長が参謀に尋ねる「敵の次の獲物は我々空母だろうな。奴らがどれだけの空母を持っているとしても我々の劣勢は明らかだ」「ここはレキシントンと合流するのが策だが、パールハーバーが使えないとなると燃料切れで太平洋のど真ん中で立ち往生する羽目になるぞ」参謀長は航海長の方を見る「これから空母戦を挑むとなると艦隊の燃料はサンティエゴまで持たないでしょうね。今後のことを考えると撤退した方がいいでしょう」「敵艦隊の今後の行動が読めない以上我々はハワイに留まるべきだ!ジャップが上陸してきたらどうする!」ハルゼーが怒鳴った「ですが大事な空母をここでみすみす失うわけにもいきません。どうか自重してください」ジーザスがなだめる。「とにかく敵の動向を探る必要があります。追加でデバスターを出しましょう」作戦参謀が提案する「分かった。レキシントンとの合流を急ぎつつ、敵の動向を探っておけ。それと本国の方に給油艦の手配を要請しておこう」ハルゼーはしぶしぶ認めた。


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一方のレキシントン率いる第12任務部隊はミッドウェー島に航空機を輸送する任務を中止し、エンタープライズと合流すべくハワイに向かっていた。そして奇遇にもその航路上には日本軍が放った潜水艦が遊弋していたのである。

このとき伊号第二百九潜水艦はハワイ南西1200kmを浮上して航行していた。艦長は電話が鳴った時に誰よりも早く飛びついた。電探室からだ「艦長、電探に何かが写りました!、大きさからして単発の航空機だと思われます。前部で4つ。方位310度、距離53海里」「やったか!。通信員、至急司令部に連絡しろ」艦長はすぐに隣の通信員に命じた「はっ!」このあたりを飛行している友軍機はないし、哨戒機なら単機だ。4機ということはデバスターの偵察小隊だろう「送信完了次第潜航!」やがてハッチが閉められ、電探を格納し艦は徐々に海の中に姿を消した。そしてこの情報は第12任務部隊の進路上におり、もっとも近い位置いた伊号第二百四潜水艦には潜航していたため伝わらなかった。その伊号第二百四潜水艦は司令を受け取る前から前衛の駆逐艦に遭遇し米艦隊の位置を知っていたが、水上には駆逐艦、上空には哨戒機がいたためこの報告を送信できずにいた。ソナーが大型艦の接近を捉えたのはちょうどその頃であった

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