第5話

一航艦の空母赤城の艦上では対艦攻撃兵装の攻撃隊が鎮座していたが、第二次攻撃隊の収容のため格納庫に降ろさなければならなかった。だが思いのほか手間取り、そこに第二次攻撃隊が帰還したため甲板上は混乱の極みだった。誘爆の危険性のある爆弾の収容作業が赤城では最優先で行なわれていた。そのときだった。「敵機右舷後方より接近!」見張り員の悲鳴に近い声が響く。南雲はそれを聞くなり「迎撃機を向かわせろ!」と怒鳴った。「敵機はB17です」「ハワイの飛行場は全て使用不能にしたはずじゃなかったのかっ?」この時、南雲ら司令部は知らなかった。もっとも遠方にあったハレイワ基地の存在を連合艦隊は知らずに、作戦を立案したこと。そのハレイワ基地にはB17などの航空機80機あまりが無傷で残っていたことを。直衛の零戦30機と着艦前の零戦が反転し迎撃に向かう。だがB17は安全策をとり高高度からの侵入を試みたため意味をなさなかった。「南雲司令、ここは迎撃機は対空弾幕の邪魔になるだけです。退避を命じてください」「分かった。着艦待ちの第二次攻撃隊も一旦下がらせろ」「はっ!」上空の味方機が後方に退避したころ、一斉に爆音が響いた。それに続いて先ほどよりも小さい爆音が連続して響く。護衛の高速戦艦金剛、榛名、重巡鈴谷の主砲が三式弾での対空射撃を開始したのだ。B17の編隊の真下で砲弾が炸裂し発動機や翼に煙がなびき、脱落する機体が出始める。だが墜落するB17はまだ無い。戦艦に比べて装填の早い重巡からの砲撃が続き、次々と編隊から脱落したり翼をもぎ取られ落ちてゆく機体が増え始める。空母4隻は回避行動に入った。編隊がかなり近づいたのだろう。秋月型10隻と対空巡洋艦古鷹、加古の九八式十糎高角砲が火を噴く。それで数機が鉄屑となって散った。どうやらB17は到達できそうにないことを悟ったのか反転していった。だが脅威が去ったと思った矢先に凶報が入った。「右舷前方新たな敵機!、急降下してきます!」一航艦はB17につられ、直掩機がいない間を突かれたのだ。この距離では零戦の迎撃機は不可能だった。各艦の対空砲がダイヴブレーキの甲高い音をたてながら迫る敵機に標準を合わせ射撃し、7機余りが散った。更に最後の砦である25㎜機銃が射撃を開始し、数機がそれを避け投弾コースから離脱し、なおも残った数機が対空射撃によって落とされた。対空射撃はそれまでだった。敵機は4隻の空母に肉薄しての投弾を開始した。赤城には3機のSBDドーントレスが投弾をしたものの全弾見事な操艦によって回避され、周囲には3本の水しぶきが上がっただけだった。だがそれは幸運だった「加賀被弾!」見張り員が悲鳴を上げる。すぐに右に振り向いた南雲は右舷に同航してた加賀の飛行甲板の前部から炎があがっているのを見た。恐れていたことが現実となったのだ。ねずみ花火を散らすように加賀の飛行甲板では爆発が次々と起きていた。爆発のたびに艦上の零戦や九七艦攻、九九艦爆が吹き飛び、そして弾薬に引火して新たな爆発が起きる。敵機は単発機だ、空母から来たのか?その考えは新たな報告でかき消された「右舷前方、敵雷撃機!」今回は零戦が迎撃に向かう。十数機しかいなかったようで零戦の攻撃で散り散りになり、魚雷が投下されることは無かった。

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