開戦〜ハワイ

第1話 真珠湾攻撃1

1941年12月8日午前1時半


「多いな」


山口多聞第二航空艦隊司令長官は空母4隻から飛び立つ攻撃隊を見てそういった。まだ深夜なので暗いが上空を横切る無数の機影はエンジン音と共に無言の威圧を持っていた。


「本艦だけでも29機、艦隊では117機ですからね。」


艦長の田島平太が応える。この艦(雲龍型航空母艦4番艦葛城)は他の同型艦3隻と共に第二航空艦隊を編成しており、葛城はその旗艦である。(無事に帰ってきておくれ)山口はそう思いながら徐々に遠ざかっていく編隊を見送った。


それから30分後、20海里離れた第一航空艦隊の赤城、加賀、蒼龍、飛龍から135機の攻撃隊が出撃した。両艦隊から第二次攻撃隊の発艦が終了するのは1時間半後の午前3時頃であった。



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原田の乗る九七式艦攻は遂に真珠湾上空へ達していた。日本時間3時22分のことである。


「真珠湾確認」

「我奇襲に成功セリを打電せよ」

「我奇襲に成功セリ、トラ・トラ・トラ、打電します。」


勝浦が復唱する。


「打電完了」

「ツ・ツ・ツ、急降下爆撃隊あて全軍突撃セヨ受信」


続けざまに2つの報告が入る。

機体は旋回し編隊から離脱してゆく。それと入れ替わりに2航戦所属の九九艦爆16機

が降下を開始した。戦艦泊地バトルシップ・ロウの戦艦群を叩くのだ。


「敵機右後方!」


原田は右から迫る機影をはっきりと目に捉えた。特徴的な膨らんだ機首、P40ウォーホークだ。12.7㎜機銃6基と重武装な機体に零戦よりも早い速度を兼ね備えた強敵だ。だが零戦がまるで大道芸のようにするりと後方に回り込みあっけなく撃ち落された。他所では零戦が機銃掃射で地上にいるP40やP36を次々とスクラップに変えている。迎撃機は上空警戒してた機体のみで、制空権は完全に確保されたようだ。攻撃隊はどうなったのだろう。下方に視線を移すと、いくつもの煙がなびいている真珠湾が見えた。




楽曲隊の演奏音がエンジン音にかき消されたのはつい数分前だった。戦艦ネヴァダでは朝の恒例で楽曲隊が国家を演奏してた。ふいにエンジン音がうるさかったので空を見上げると無数の機影がうごめいていた。


「陸軍の連中、今日は派手だなあ」

「一体なにをやるつもりなんだろう」


乗組員の皆はそれが飛行場に爆弾を投下するまで陸軍航空隊だと思っていた。つんざく爆発音に続いて飛行場から炎と煙があがったころ、すぐに戦闘配置の艦内放送が流れ、兵員は急いで持ち場に着いた。『真珠湾空襲さる。演習にあらず』と打電されたのはちょうどこの頃であった。だが時すでに遅し、九九艦爆38機が戦艦群への急降下爆撃を開始したのだ。対空射撃もろくにされない中、甲高いダイヴブレーキの音が徐々に大きくなり恐怖へと変わる。機体を引き起こした艦爆が戦艦群の横を通り抜ける時には既にいく筋もの爆炎が戦艦泊地バトルシップ・ロウからあがっていた。

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