大江山 (4)
その山は低山ながら見晴らしがよく、方角と運が良ければ
今日はあいにく
一族郎党引き連れて東から下って来たこの山で、この手頃な岩屋を見つけた時、岩屋の持ち主だったサルの群れを術を用いて手懐けた時、都の様子を下見に行って無事帰った時、確かに見事に晴れ渡る空と、海と、天橋立がくっきりと見えたのを覚えている。
「
配下の声に甘い感傷から引き戻され、振り返ると麓や都で情報収集を任せていた一族の男が、
「麓に潜らせていた目と耳から、都の者と思われる集団が向かっているとの声を得ました」
「巫術は」
「すでに用いましたが効きませぬ。普通、どんなに術に強くとも供の一人くらいには効果が出るものですが」
「……ならば、我が
「はっ!」
今度の戦は守る者なく、ただ生きるか死ぬかの
生き残れたとしても、また同じように繰り返し、同じ手の者を都から送り込んでくるのだろう。
我々が真に滅びるまで。
遥かな昔を思い出し、
里で
「……
『……どうした?』
かすかな声で言問に呼び掛けると、
この被衣は言問の
「たぶん、見張りがいる。視線が二つ。 俺にじゃなく、形代の方へ」
『ふむ。 そろそろ仕掛けて来るやも知れんな。形代の方はもしかしたら残らぬかもしれんが、問題ないか』
「大丈夫だ、一人で行ける」
『まあ、お前の
「わかった。 ……やはり形代についてくるな、あやつら」
その後をそっとついていく気配をゆっくりと追いながら、鳴神もひっそりと山へ分け入っていった。
そして、山道を順当に進んでいた形代が道半ばでふつと崩れたのを、都の屋敷の自室で言問は確認した。
「ふむ、ある程度は出来る奴らよな。まあ燃えなければ、死体として見えよう。問題は……」
鳴神の方は天性の勘の良さと用心で、まだ鬼どもには気取られず、順調に山道を登っていた。ただし、その先、開けた山頂にはどうやら鬼の巣窟がある。
被衣だけでは、たぶん鬼の
「
ふうと息を一つ、作っておいた
鳴神がようやく山頂の開けた空へと出会った頃、どこからともなく、その剣は襲ってきた。
とっさに被衣を投げ出し、背中に負った
最初に受けた一撃で、被衣は呪の部分どころか支えの
「お前が大江の鬼か」
周囲のぐるりを弓や剣を持った男たちが囲んで切っ先をこちらに向けているというのに、鳴神は鮮やかに笑って、火花のような殺気を奥にいる物静かな男に向けた。
先ほどの
「お前は天子の
会話をするようでいて、物静かな男の
しかし、鳴神としても、統領らしき男とだけ対峙出来るのは好都合だった。
つまらぬ弱いものを弾き飛ばし切り殺すよりも、より強く強大なものと戦い、切り殺した方がよほど楽しい。
「確かにお前の言う通りだ。俺は天子の末であるし、天子の目論見もまたその通りだろう。だが、俺は心まであやつらに従っているわけではない。俺の主は別にいる」
鳴神が大太刀を独特の形に構えると、同じく
山頂を緩やかな風が吹く。
のどかな日差しも軽やかな小鳥の
そして鳴神の
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