大江山 (3)
その山に辿り着くまではなかなか難儀な道のりだった。
暑い寒いの文句も言わず、苦もなく
言問との暮らしが長くなるにつれ、形代の利便の良さになれている鳴神は、だからこそ余計に御所や貴族の歓待があまり肌に合わない。
今夜も明日には入れるだろう
ただし元が元ゆえ、火に近づき過ぎると燃える。
それゆえ火起しは途中で変わったが、形代ゆえに燃えようが崩れようが炭になる寸前まで人型のまま平然としているのは分かっていても怖いものがあった。
「この距離を鬼どもが往復するのはなかなか難儀そうだが……。
パチパチと弾ける火を見つめて、良く焼けたウサギ肉に齧り付きながらどうやってか聞こえているらしき言問に問う。
『鬼術ではなかろうよ。おそらく山慣れた者だ、上手く都まで抜ける道を知っているのだろう。まあ、道中会う人間には鬼術を使っているかもしれんがな』
頭部に直接響くような言問の声に、まるで抱き寄せられて耳元で囁かれているようだと考え、誰が見るともなしに鳴神は赤くなった。
『それより、お前の体は問題ないか。明日は里入りであろう、なにかあらば入用の物を形代に手に入れさせておくが』
「この程度の距離、俺は問題ない。逆に鈍っていた足が元気になったようだ。都ではなかなか思い切って動けぬからな」
むん、と片腕に力こぶを作って見せると、見えているのかいないのか、言問が笑う。
『ハハッ、その調子だ。夕餉を終えたら朝までゆっくり休むといい』
「言問……」
声が遠くなる気配に鳴神は思わず空を掴むようにして呼び止める。
呼び止めたものの、思わず口ごもる鳴神に、やさしく笑う気配がしてまた言問の声が響く。
『そうだな、お前が眠りに落ちるまで、また何か語ってやろう』
「あの話がいい、なんだったか……良いことをした神が海の底の宴会に招かれる話」
『鳴神は幼き頃からそれが好きだな』
焚火の火が小さくなり、とっぷりと日が暮れ落ちる頃まで、即席の寝所にて言問による鳴神のためだけの寝物語は続いた。
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