言問と鳴神 (5)
「まあ、
「あそこは一人では落ち着かん」
「俺はお前の屋敷の方が落ち着かん。むさくるしい
「花ほどつまらぬものはない。枯れる、食えぬ、戦えぬ。果樹はいいが草花など愛でる気にはならん」
うそぶく
「まったくお前と来たら。育て方を間違えたな」
「なんの、鬼子を拾った
さっきと変わり、幼子が甘えるように笑ってすり寄る鳴神の背を抱き、首筋を撫でながら、言問がその耳元に唇を寄せる。
「おうとも、行く末まで見守ろう。お前はもう腹も血もすべて
言問の声にぶるりと身を震わせて、従順に頷く鳴神の姿に、先ほどの火花散るような殺気はない。
ただただ甘やかな情を腹に抱え、男らしく固く締まった顔がゆるりと溶けて、とろりと濡れた蒼天の眼でこちらを見上げる姿は何ともいえぬ風情があった。
もう一度熱い息を吐く口を吸い、捕まえていた首筋をするりと撫で身を離す。
「先に行け。
「俺は蒸されるのは嫌いだ」
「ならば
「湯浴みも好かぬ」
「
むうと大きななりで童のように膨れる鳴神の背をやんわり撫でて、懐から人型に切り取られた、言問の手のひら半分に満たない
出した形代にサラサラと指で
みるみると膨れたそれは品の良い女房になり、牛飼いの男になり、先導の童となった。
もう一枚、呪を刻んだ形代にふっと息を吹き込むと、それはさっと猛禽の姿となって小窓から空へ飛んだ。
「いつ見ても
「あれらと俺を一緒にするな。さ、もう行け、ここにお前を隠すにも限界がある」
名残惜しげな視線も一瞬、形代たちを引き連れ、目つき鋭く武人の姿となって鳴神が去るのを一度眺めて板戸を閉め、言問は笑う。
「まったく、
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