第2話
カラスがよく鳴く夕方6時。部活も終わりに近づき、沢山の学生が家に向かうのに混じり私もぽつぽつと歩いていた。
友達もおらず、親も海外で働いているため一人暮らし。親からの最低限の仕送りだけで何とか生き延びている私があの作品と出会ったのは、神の嫌がらせか何かだろう。
「…」
この扉を開けたら、誰かが私の事を出迎えてくれないだろうか。
なんて、都合のいい事を考えたのはもう何年ぶりだろう。忘れていた孤独感が、あの作品のせいで込み上げてくる感覚がやけに気持ち悪い。
「…ん?家の鍵が無い…?」
あ、と情けない声が漏れる。そういえば、ポケットの中が少しごちゃごちゃしていて鍵を取り出していたっけ。
はぁ……と、全ての感情をため息にして逃がし、大人しく私は学校へ向かった。
「流石にこの時間になると暗いな……誰もいないし」
今まで友達と楽しく夜の学校まで残る、なんて経験が無かったもので、高校3年生にして初めて夜の暗い廊下を歩く。
暗い状態で非常口の看板が光るとこんな感じなのか、などと呑気に考えていると、自分のクラスにたどり着いた。
扉を開ける前にふと、自分の席を流し目で見てみる。すると、1つの影が自分の席にある事に気づいた。
カーテンとか、椅子とかそういうのじゃなくて、ちゃんとした人影。
人影……うん、人影。え?
「あっ、え、え、あ?え?こんな真っ暗な教室になんで人が?しかも何で私の席?ひぇ、あ、」
もしかしておばけ?うそじゃん、今まで見たこと無かったのに、ほんとにいるの?てかなんで私の席に座ってるの訳わかんない………などと、あまりの怖さにしゃがみこみながらぶつぶつ喋っていると、
「ばあ」
「ああああああああいやあああああああ!!!!!!!」
私の席に座っていたであろう黒い影…いや、セーラー服の女の子が私と同じ目線で驚かしてきた。
「あはは!いい叫びだ!ボタンを押すとよく鳴るおもちゃみたいでいいね!もっかいやっていい?」
「なっ、あ、え、喋るの…?おばけって喋るの…?」
「やだなあ、おばけだって喋るよ。どう?怖かった?」
「いや、もう、怖いとかの次元じゃなくて……」
さっきまでの恐怖と、おばけが今気さくに喋りかけてくる状況のギャップに流石に体が追いつけなかったようで、へたりと腰を抜かしたように体勢が崩れる。
「いやあごめんごめん。つい出来心でね。なんせ私の事を認識する人なんて久しぶりだから」
「じゃあその今の体勢も出来心ですか……」
「これはユーモアだよ。きのこみたいでいいだろ?」
さっき言った"同じ目線"とは、私と同じ体勢のことでは無い。地面から体を生やして、上半身のみで私と無理やり目線を合わせているのだ。人を驚かしたいのか笑わせたいのか、どっちなんだこのお化けは。
「まあ、それはともかく。ほら、これを取りに来たんだろう?」
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