秘密と彼女6

「なんかプロポーズみたい。瑠璃たち、付き合うんだよね? まだ結婚するわけじゃないよね?」


「そ、それはもちろん! 先のことはわからないし……いや、そんなことはどうでもいいんだ。答えを聞かせてほしい。瑠璃、俺と付き合ってくれ」


 瑠璃は屈託のない笑顔で頷いた。

 彼女はどこまでも真っ直ぐで、虚偽を知らない少女だった。

 慶吾にはそんな彼女が眩しかった。


「――はい。慶吾なら恋人にしてもいいかな。慶吾は瑠璃が泣いたらいつも慰めてくれるし、どんな時でも優しく接してくれるしね。これからよろしくね、慶吾」


「こちらこそよろしく、瑠璃」


 慶吾は冷静さを保っていたが、心は蒲公英の綿毛のように舞い上がっていた。

 今なら舞台の上で踊ってもいいくらいだった。


 なんて簡単なことだったんだろう。

 郁弥の言う通り、好きだって一言伝えるだけでよかったんだ。

 この一言で瑠璃は振り向いてくれた。

 今、郁弥を追い越した。

 背中を押してくれた郁弥には感謝しないとな。


 すると、瑠璃はもみじのような小さな手を差し出してきた。


「ただし、瑠璃と付き合うには条件があります!」


「えっ、なんだよ?」


「たまにはデートで町に連れていってね。瑠璃、この村が好きだけど、町も好きだから」


「なんだ、そんなことか。俺も免許は取るつもりだから、バイクで町に連れていくよ」


「約束だからね。あと……瑠璃はまだ慶吾のことを男の子として好きかどうかわからないけど……それでもいいかな? いつの間にか好きになってもいいかな?」


「なんだよ、いつの間にか好きになるって」


「慶吾もいつの間にか瑠璃のことを好きになったんでしょ?」


「まあ、そうだけどさ」


 慶吾は小さな手を取った。


「いいよ。瑠璃が俺のことをどう思っていても、俺は瑠璃のことをずっと好きでいるからさ」


「あははっ、何それ! 慶吾って、そんな気障なキャラだったっけ? なんか郁弥みたい」


「……今日だけだよ」


 2人は握手を交わし、しばらく互いを見つめ合った。

 何年も一緒にいるはずなのに、今日初めて会うかのような新鮮な気持ちになった。


 俺は郁弥にはなれないけど、それでいいんだ。

 郁弥を超えて瑠璃の眼中にい続ければいいんだ。

 瑠璃には俺のありのままを好きになってもらいたい。

 だから、俺はありのままでい続ける。

 こっちの方がよっぽど気楽でいい。

 なんて心が楽なんだろう。


「瑠璃たち、いつの間にか恋人同士になっちゃったね」


「いつの間にか、か。そうだな。人生って、いつの間にかの積み重ねでできてるんだろうな」


 慶吾がしみじみとそう言うと、瑠璃はおかしそうにくすくす笑った。


「ちょっと、真面目に返さないでよ! 笑っちゃうじゃん!」


「なんでだよ。あっ、餅撒きが始まったぞ。行こう、瑠璃」


「うん! どっちがいっぱい取れるか勝負だね!」


 餅が飛び交う舞台の前でおしくらまんじゅうをしている人だかり。

 2人は手を繋いでその中へと走り出した。

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