神と彼女5

 子供たちが帰るのを見届けて、5人はハイタッチをした。


 礼佳は戸惑いつつも団欒の輪の中にいた。


「大成功だね! これでちょっとはこの神社にお参りする人も増えたかな?」


「増えただろ。参拝者は増えたし、俺たちも遊べたし、一石二鳥だったな」


「でも、これだけじゃ神社が復興したとは言えないよね。参拝者は増えたけど、神社で遊んでいるだけじゃこれ以上増えることはないと思う。もっと広くこの神社のことが伝わるような方法はないかな。できたら村の外からも参拝者が来るようにしたいよな」


「確かにな。じゃあ、ちらしを作って宣伝するっていうのはどうだ? 随分寂れてるが、自然の豊かさならどの神社にも負けないと思うぜ。もみじの木も綺麗だしさ」


「うんうん、田舎ならではだよね。町や都会ではなかなか見られないよ」


「だけど、自然を売りにしたちらしだけで参拝者が増えるかな。もっと人が集まるような方法を考えないと。この神社の評判が噂として広まってくれるのが理想だよね」


 またもや五里霧中に陥ってしまった。


 神社で子供たちと遊ぶという案を出してくれた先生に頼りたいところが、明日は土曜日。

 休日の高校には先生はいないし、わざわざ離れた先生の家まで赴くのも面倒だ。


 すると、慶吾が「あっ、その手があったか」と声を上げた。

 何か思いついたようだ。


「この神社で秋祭りをするっていうのはどうかな。かつてはこの村でも秋祭りが催されていたし、村おこしにも繋がる。村長にかけ合ってみようよ」


「いいね! 瑠璃、お祭りは大好き! 屋台の食べ物はどれも美味しいよね!」


「瑠璃は食べることばっかだな。まあ、俺も賛成だぜ。秋祭りなら村の外からも人が来るかもしれねぇし、俺も祭りは好きだしな。礼佳も祭りは好きだろ?」


「祭り……なんだったか、思い出せそうなのだがな」


「簡単に言うと、祝い事だよ。秋は農作物の収穫の季節なんだ。無事に農作物が収穫できることを神様に感謝するのが秋祭りだよ。屋台が出たり、神楽を舞ったり、餅撒きをしたりするんだ」


「ああ、思い出したぞ。私も祭りは好きだ。着物を着て行ったような気がするぞ」


「おっ、少しずつ記憶が戻ってきてるみたいだな。でも、この村の祭りは俺たちが小学生の頃になくなったんだ。それからは隣町の祭りに行ってるな。この村の祭りが復活してくれたらいいのにってずっと思ってたんだ、俺たちの手で秋祭りを復活させてやろうぜ」


 4人が話に花を咲かせる中、紫月は1人思案に暮れていた。

 慶吾はそれを察して会議を中断させた。


「紫月、どうした? 何か問題でもあるのか?」


「いや、問題っていうか、僕たちにできるのかなって思ってさ。そもそも村長が承諾してくれないと屋台も神楽も無理だし、お母さんのことを考えたら今週中には間に合わせないといけない。休日じゃないと人も集まらないだろうし、土曜日か日曜日には秋祭りを催さないといけない。村長が承諾してくれたとしても、屋台を出す人や神楽団が来てくれるとは限らない。あまりにも急すぎるんじゃないかな」


 紫月のもっともな意見に、4人は俯き加減になって口を閉ざした。


 皆が神社を復興するために協力してくれるのは嬉しいし、夢をぶち壊すようなことは言いたくない。

 でも、これが現実だ。


 多分、1週間後にはお母さんは死んでいる。


 やっぱりもう遅かったんだ。

 神社を復興するなんて無理だったんだ。

 神代さんが言った通り、神様は役に立たなかったんだ。


 紫月が掴んだ希望の糸はあまりにも細くて心許ないものだった。

 もういつ切れてもおかしくない状態だった。


 本当はわかってるんだ。

 神様に頼ったってお母さんの病気は治らない。

 どんなに強く願ったって神様は助けてくれない。

 所詮は叶うはずもない願いなんだ。


 僕はいつまでもお母さんの死を受け入れられないでいる。

 僕は弱い人間だ。


 心の傷がずきずきと痛んだ。

 目が覚めた時のように、死が脳裏を過ぎった。


 紫月は夕日を浴びて美しく輝くもみじの木を見上げた。


 このもみじの木は強いな。

 独りぼっちでもしっかり立っている。

 支えがなくても折れずに立っている。

 しかも、こんなにも美しい。


 まるで神代さんみたいだ。


 それに比べて僕は駄目だな。

 支えがあるのに弱くて今にも折れてしまいそうだ。

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