第3部 神と彼女
第1章
神と彼女1
紫月と礼佳は畦道で合流し、並行して登校した。
途中でおばさんに無花果をもらって食べたため、いつもより少し遅くなった。
他の3人は既に揃っていた。
教室に入るなり、礼佳は「神社を復興するぞ」と高らかに宣言した。
教壇に上がって教卓に両手をつく礼佳は凜然としていた。
記憶喪失になる前の彼女の面影はやはりなかった。
「昨日、紫月と神社で出会って話をしたのだ。そして、紫月の母の病気を治すには神に頼るしかないという結論に至った。神社を復興すれば、神も力を取り戻して紫月の願いを叶えてくれるかもしれない。3人にも協力してほしいのだ」
予想通り瑠璃はこくこくと頷いて快諾した。
「もちろん瑠璃はいいよ! 楽しそうだし! 5人で秘密基地を作った時みたいにわくわくするね!」
胸を弾ませる瑠璃を横目に、郁弥は珍しく真顔で両腕を組んでいた。
「あんな寂れた神社に神様なんていんのかな? 神様がいたとして、都合よく紫月の願いを叶えてくれんのかな?」
郁弥の疑問はもっともだ。
恐らく他の2人も同じことを思ったであろう。
しかし、慶吾が「でも」と口を開く。
「神様はいてもいなくてもいいんだよ。大事なのは行動することだ。1週間何もせずにおばさんの死を待つだけなんて虚しいでしょ。紫月、礼佳、俺も協力するよ。俺もおばさんのために何かしたいと思っていたんだ」
紫月と礼佳の言わんとしていたことは全て慶吾が代弁してくれた。
それで納得したのか、郁弥は力強く首肯した。
「友達の頼みだ、断るわけがないだろ。それで? 具体的には何をするんだ?」
「それをこれから考えるのだ。とにかく、参拝者を増やさなければ。参拝者が増えれば自ずと神社も復興するはずだ。どうにか村の住民を集められないものだろうか」
5人は唸った。
荒廃して誰も寄りつかなくなった神社に村の住民を集めるのは至難の業だ。
そもそも村の住民が神社に参拝する理由がない。
高齢者もわざわざ長い石段を上って参拝しようとはしないだろう。
早速暗礁に乗り上げたところで、先生が欠伸をしながら現れた。
礼佳は教壇から下りて席に着いた。
「おはよう、皆。なんだ、会議か? どうやら行き詰まっているようだな。どれ、先生も何か案を出してあげよう」
「あのね、瑠璃たち、紫月のお母さんの病気を治すために神様に頼ることにしたの。でも、神社にお参りする人がいないと神様も力を発揮できなくて紫月のお願いを叶えられないと思うんだ。だから、神社を復興したいの」
「なるほど、それは殊勝だな」
「参拝者を増やすことが解決に繋がると思うんですけど、その方法がなかなか思いつかないんです。この村は少子高齢化が進んでいるし、やっぱり高齢者を中心に呼びかけた方がいいんですかね。子供は神社には興味なんてないだろうし。でも、高齢者にあの長い石段はきついからあまり集まらないと思うんですよね」
「確かに、難しいところだな。うーん、どうしたものか」
先生は顎に指を当てて5人と一緒に唸った。
やはり一筋縄ではいかないようだ。
少人数でもいいから村の住民を引き寄せる糸口はないだろうか。
それさえ掴めれば、水面の波紋が広がっていくように参拝者が増える可能性もあるのだが。
すると、先生が何か閃いたと言わんばかりにぽんと手を打った。
「子供たちを神社に集めればいいんじゃないか?」
先生の提案に、瑠璃は呆れた溜め息を漏らした。
「子供が神社に集まるわけないじゃん。瑠璃だって紫月のためじゃなかったら神社なんか行かないもん」
「瑠璃は子供だもんな」
「そうだけど……あっ、郁弥、瑠璃が小さいって意味で言ったでしょっ! むかつくーっ!」
「まあまあ、この案にはまだ続きがあるんだ。子供たちを神社に集める方法だが、子供たちが遊ぶ場所を神社にしてしまえばいいと思うんだ。神様だって寂しいだろうから賑やかになっても罰は当たらないさ。帰りは家族が迎えに行くように仕向ければ、ついでにお参りしていく人もちらほら出てくる」
「おお、それ、いいかも! さすがは先生、天才だね!」
「はははっ、それほどでもないさ」
先生の提案は、神社の参拝者を増やす糸口になりそうだった。
村の少子高齢化を逆手に取った打開策であった。
ひとまず5人はこの案を試してみることにした。
「じゃあ、子供たちには俺から伝えておくよ」
「ありがとうございます、先生。放課後が楽しみだな。子供たちがいっぱい集まってくれるといいんだけど」
「そうだな。昼休憩は何をして遊ぶか一応考えとこうぜ」
「うん! 遊びなら瑠璃の得意分野だね! 任せといて!」
乗り気になる3人に、紫月と礼佳は顔を見合わせて笑った。
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