『てるてる坊主は君に微笑む』
@hukumiya_satomi
『てるてる坊主は君に微笑む』
空を見上げる君の横顔を見ると、気持ちが晴れやかになる。君は優しく僕の手のひらにそっと触れながら言う。
「ほら、今日も晴れたね、天ちゃん。」
僕はただのてるてる坊主。ある少年によって吊るされ、天気を晴れにすることが僕の使命だ。天気を晴れにすることは、少年の願いでもある。
「天ちゃん、明日は運動会だよ。お願い、晴れにしてくれないかな?時々は晴れないこともあるけど、天ちゃんを信じてるから。」
少年はいつもそうやって、晴れを願う。僕はその願いを受け止めるために全力を尽くす。しかし、僕には天気を晴れにする力はない。だから、少年と一緒に晴れることを願うのが僕にできる唯一のことだ。
「明日の運動会では、僕がリレーのアンカーなんだ。お父さんもお母さんも楽しみにしてるんだから。」
少年の強い言葉に、複雑な感情が募る。天気は気まぐれだ。晴れる日もあれば、曇る日もある。いつもそうだ。
朝が来た。天気は予報通り、雨だった。
僕は自分の無力さを感じた。てるてる坊主が気休めにしかならないと思ってしまう。今回も晴れなかった。僕はいつも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
雨の日の朝、少年は頬を赤く膨らませながら僕を見つめ、そっと抱き上げてくれるが、その腕は震えていた。
「どうして、今日は晴れにしてくれなかったんだ。今日も晴れをお願いしたのに。天ちゃんなんて知らない。」
その一言とともに、少年は僕をベランダの床に投げつけた。僕は天井の隙間から見える誰もいない空を見上げた。少年の気持ちがよくわかる。僕も同じ願いを抱いていたからだ。二人ぼっちの願いとも言えるだろう。
時が過ぎ、運動会は屋内で行われたとわかった。少年が家に帰ってきたとき、僕は床に投げつけられたままだった。その後、少年の母親に再び吊るされた。僕はただひたすら、少年の帰りを待ち続けた。
「天ちゃん、今朝はごめんね。雨でも運動会が中止にならなくてよかったよ。僕の気持ちは晴れだったから。」
少年の言葉を聞いて、僕は安堵と喜びを感じた。君のそばで晴れを願い、君の心を晴れにできたのかもしれないと思った。再びてるてる坊主としての自信を取り戻すことができた。明日も晴れるといいなと願いながら、また吊るされるのを待つことにした。
それからも、僕は何度も吊るされ、少年の気持ちと天気を晴れにする役割を果たし続けた。晴れなかった日もあったが、僕は大切にされていた。
しかし、ある時を境に、僕はいつの間にか忘れ去られてしまった。過ごした日々が懐かしく思えるほどに。君のそばで再び吊るされる未来はなかった。僕は暗い気持ちになり、明日の空がどんな色になるかを一人で考えていた。しかし、気持ちは一途だった。明日の空もきっといい色になるだろうと信じて、静かに過ごすことにした。
「母さん、この箱の中身は何だろう。開けてみてもいい?」
外から聞こえてきた声に、時間が経ったことを感じた。
「わぁ、懐かしいてるてる坊主だ。確か、名前があったよね。なんだったっけ?」
その声を聞いて、僕は確信した。あの少年だ。天ちゃんと名付けてくれた少年が大人になったのだろう。近くには子どもの声と優しい大人の声も聞こえている。
「母さん、このてるてる坊主の名前なんだったっけ?すごく大事にしていた気がするんだけど。」
「天ちゃんよ。忘れたの?」
久しぶりに僕の名前を聞いた。なぜ僕が長い間、箱にしまわれていたのだろうか。
「思い出した。天ちゃんだ。中学生ぐらいから恥ずかしくなって箱にしまってたんだ。」
羞恥心が僕をしまっていた理由らしい。大切にしていたのに、そんな理由でしまわれるほど、てるてる坊主が子供だましのものだと思われていたのかと、悲しい気持ちが募った。
「また、天ちゃんに会えて嬉しいな。ほら、こっちにおいで。」
大人になった少年は、自分の子どもを呼び寄せ、僕の姿を見せながら昔の思い出を語り始めた。
「てるてる坊主には心を晴れにする力があると思うんだ。信じる心が幸せを届けてくれるのかもね。天ちゃんからそんなことを教わった気がするよ。」
そう言われて、僕は再びベランダに吊るされた。少年も僕を信じてくれていた。互いに見守り合う関係があるだけで幸せだと思った。そう考えながら、空を君と君の子どもたちと見上げる。そこにはいつもと変わらない空が広がっていた。それだけで、僕は幸せだ。てるてる坊主としての役割を果たし、君を見て微笑む。
「明日天気になれ、君とふたりで導く、明日の空はきっといい色になる。明日天気になれ。」
「ほら、今日も晴れたね、天ちゃん。」
『てるてる坊主は君に微笑む』 @hukumiya_satomi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『てるてる坊主は君に微笑む』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
心の付箋紙たち最新/杉の樹
★7 エッセイ・ノンフィクション 連載中 11話
精神障がい者の日記/羽弦トリス
★54 エッセイ・ノンフィクション 連載中 501話
エッセイ「題名は未定」/木村れい
★26 エッセイ・ノンフィクション 連載中 16話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます