第3話

「うぅっ…」

わたし・三里は,泣きながら家へ帰る道を歩いていた。

今日は,国語の時間に自分の名前の由来のはっぴょうかいがあった。

わたしのお母さんとお父さんは,おしごとで帰ってくるのが遅い。

だから,聞けなかった。

それでせんせーに聞けなかったことを言った。

そしたらクラスメイトの陽太くんが…

「お前のことが嫌いだから帰ってくるのが遅いんじゃねーの?」

って言った。だからわたし,言ったんだ

「違うよ。二人ともお仕事で忙しいんだよ!」

って。そしたら陽太くんは…

「じゃぁなんで,みりの,み,は『実』や『美』じゃなくて数字の3なんだよ。いらないからテキトーにつけたんじゃないの?」

って。わたしは,泣くのを我慢して言い返した。

「違うよ!きっと意味があるんだよ!」

「じゃぁ名前の由来聞いてみろよ」

それでわたし,何にも言えなくなっちゃったんだ。

そしたら陽太くんたちが,ほらみろってわたしの頭をこつんって指で突いた。

わたし,気づいたら自分の席でちっちゃくなってた。

それが悔しくて。悲しくて。

あと,お母さんとお父さんに聞けなかったのが,寂しくて。

「ただいま」

わたしは誰もいないうちの玄関に声をかけた。

電気をつけて階段で自分の部屋のベットにうずくまった。

「うっ。ううっ」

枕がしめる。でも,そんなの気にしていられない。

なんでわたしの家はお父さんにもお母さんとも話せないの?

寂しいよ。悲しいよ。

もっと話たい。

サァァァァァ。

突然,窓から冷たい風が吹いてきた。

「え?」

わたしは顔をあげて涙を拭う。

窓には,一人の女の子が立っていた。

わたしよりも背が高くて,肩までの髪はすっごくサラサラしてる。

夕日に当たった瞳がきらっと光った。

「お姉さん…誰?」

そうわたしが呟くと,お姉さんは優しく笑ってくれた…

「大変だったね…頑張ったね」

わたしは今までにこんなにより剃ってくれる人に会ったことがなかった…

「私はね,空から来た天使。あなたのお手伝いをしに来たの」

「おてつだい?」

そう聞き返すと,天使さんは頷いた。

「まずは,何があったのか,教えてくれる?」

全部話した。

喋ってると,どんどん涙が溢れてくる。

けど,もうそんなの気にしてられなくて。

「辛かったんだね。寂しかったんだよね」

天使さんはゆっくりと窓の枠に飛び立った。

「रोशनी इस बच्चे को शक्ति दो」

天使さんは呪文を唱えた。

すると,わたしの中から何かが飛び出してきて,もう一度胸に戻った。

「三里ちゃん」

「あれ?なんで…わたしの名前…」

「三里ちゃん。自分の気持ちを,素直にお母さんに伝えてごらん」

「わたしの…気持ち?」

「うん」

「でも,お母さんたちはいつも帰ってくるのが遅くて…」

そうわたしが言いかけた時,家のドアが開く音がした。

「ただいまー」

「えっ!」

わたしは急いで,階段を降りる。

「あら三里。ただいま」

「おかえり…お母さん,お父さん」

「ふわぁ…眠いなぁ…三里。お前ももう寝るんだぞ」

あっ。お母さんたち,寝に行っちゃう…

『自分の気持ちを』

わたしの胸に,天使さんの言葉が出てきた…

そうだ。自分の気持ちを…ぶつけなきゃ。

「お母さん!お父さん!」

声を出した。

二人が振り返る。

「わたし,もっと二人とお話ししたい!大事なお仕事なのは知ってる。けど,けど!やっぱり…二人と全然話せなのは…寂しいよ。わたし,言葉下手だから,うまく説明できないかもしれない!けど,たまにでいいから,わたしのお話,聞いて欲しいの!お願い…」

最後は,ちっちゃい声になってしまった。

涙で周りが霞む。

そんな中,二人がこっちに近づいてくるのがわかった。

「ごめんね!ごめんね,三里!」

気づいたら,わたしは二人の腕の中にいた。

「すまない。お前はしっかりしているからと思って…そんな気持ちだとは思わなかった」

「三里…私たちの方から,部長さんに話して,もう少し早く帰れるようお願いするわね!」

「お母さん…お父さん…」

泣きながら,わたしは天使さんがいないことに気がついた。

(ありがとう…天使さん)

わたしはそう思いながら,窓に向かって微笑んだ。


窓の枠にもたれかかって話を聞いていた天使は,ジャンプをして電柱に飛び乗った。

大切なものを見つけた三里には,もう自分の姿は見えない。

三里の家を見つめてから,天使は次の子供を探しに行った。

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