第2話
それから三百年。
あの時の天使は,サラサラの髪を肩までなびかせる,女の子になっていた。
澄んだ色の綺麗な目。肩まで流れるサラサラで細い髪。そして,風でフワッと靡くワンピース。
性格は,口数は少なく,表情もあまり表に出さないタイプであったが,直向きに優しかった。
姉の方も,二つのおさげを垂らしている,優しくて,気の強い女の子になっていた。
意志のこもった目はキラッとしたひかりが入っていて,髪の毛は,ゴムを外したらフワフワの柔らかい髪。思ったことはすぐに口にはせず,心の中で相手のことを考えてから発言する優しい女の子。
性格も見た目も正反対の双子。
そんな二人の趣味も,全然違った。
「………」
天使はぼーっと地上を雲の上から見下ろしていた。
最近の天使の趣味だ。
「………」
天使は特に何も言わずにジィッと眺めている。
でも,言葉は喋らなくても,心では色々と考えていた。
(やっぱりここが一番落ち着くな…。公園で遊んでいる人…魚を咥えた野良猫を追いかけている人……。何か感じるものがある…なんだろう…なんか…胸の辺りがポカポカするな…)
考えながら天使はジィッと下を見つめる。
「おーいっ!」
その時,天使に向かって声がした。
明るくて,女の子らしい甘くて優しい声。
天使の双子の姉の,美奈だ。
美奈は後ろから天使に抱きつく。
「えーいっ!」
「うわぁっ!」
その勢いで,天使と美奈は落ちかける。
「「危なっ!」」
美奈は焦っているけど,天使は普通。
「ねぇー。あたしさぁ趣味が今日の分終わっちゃったのーっ!だからあーそーぼっ!」
美奈の趣味はお花を育てること。
水をやって,肥料をやって,観察日記を書いて,だがこんな趣味は,一時間ほどで終わってしまうのだ。
美奈が話しかけるが,天使は何事もなかったかのように街を見ている。
「そうよね。あんたは…」
美奈は呆れたような目で天使を見る。
一方天使はそんなこと気にせずに,いろいろなことをしている人間たちを眺めていた。
すると,奥の本殿の方から声がかかった。
「天使の妹!少しきて!」
風香の声だ。
「じゃあね。美奈」
天使はそう言って歩いていった。
天使が本殿について,ソファーに座ると,風香から質問された。
「天使。あなたは今まで,自分の名を呼ばれなくて,何か思ったことはありますか?」
「…特に何も…」
天使はなんで呼ばれたのかよくわからないという顔で,答える。
「じゃ,じゃあ,名前を呼んで欲しいと思ったことは?」
「ありません」
天使は短い言葉で風香の質問に答えていく。
(風香様は一体,なぜ私をここに呼んだのだろう?)
一方で,天使が想像していた答えと全く逆のことを答えていくので,風香は少し焦り気味。
(なんでこの子,名前のこと全く気にしてないわけ?話を進めないといけないのに)
「風香様。ふざけずに,真剣に。ボクをお呼びになったわけをお話しください」
ついに呆れた天使の質問に風香はもう呼び出したわけを離すことにした
「えっとねぇ。コホン。妹。あなたにお願いしたいことがあります」
「はい」
二人はそれぞれ,光の神の顔,光の天使の顔つきになってお互いの目を見定めた。
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