ダンジョン
「今日がいよいよ、ダンジョン実習の日だ。各位、今日まで自分の力に磨きをかけ続けた数日間だっと思う。事実、ここにいる全員数日前とは顔つきが違う――――」
長ったらしい学園長の話はさておき、ついに今日僕たちはダンジョン実習の日を迎えた。
僕のパーティーはクレイア、アルヴァに加えて同級生のラナンを含めた四人。
「ゼノ君、よろしくねぇー」
「うん、よろしく」
ラナンとはまだ出会ったばかりだが、一緒にパーティーを組めてよかったと思う。ラナンもまたアルヴァ達と同じように僕に優しくしてくれる希少な人だから。
学園長の話は長すぎたのか、他の教師に耳打ちされて学園長は話を切り上げる。
「うむ。ではもう私の話は終えるとするか。では、諸君準備はいいなぁ! ダンジョン実習、スタートじゃぁ!」
学園長の宣言とともに生徒たちは一斉に走り出す。ダンジョンを目掛けて。
「よっしゃあ、一番乗りで30階層の【
「うんっ!」
「アルヴァ、ゼノ、焦りは禁物よ」
「その通りっすよ、アルヴァさん」
「もーなんだよお前らァー」
パーティーの雰囲気はいい感じだ。
僕はこのパーティーに入れて良かったと思う。
そして、僕らはダンジョン入りを果たした。
♛︎
「ハァァァァ!」
狼型をした魔物はアルヴァによってあっさりと切りつけられて死亡した。
「これがダンジョンか……」
アルヴァは余裕そうに言う。
ダンジョンに入って数刻が経ち、僕たちは20階層まで来た。
道中かなり魔物も出てきたが、僕らなら余裕で対処することが出来た。
と言っても、僕はこれといって何もしていなんだけど。というかついていけない。ラナンもやっとといった感じだ。
「ハァ……ハァ。お二人どんだけタフなんですか」
ラナンは少し辛そうに膝に手を着いた。
「ラナン、大丈夫? 休憩とる?」
「いや、ここで休む方が危険だ。もう少し進もう」
二人はなんだかダンジョンに慣れているようにも感じられる。
やっぱり二人はすごいと、改めて思う。それと同時になんだか申し訳なくも思えた。
「ラナン一緒に頑張ろう」
「はいですぅー」
それからもダンジョン攻略は至って順調に進んだ。
それにしてもやはりダンジョンは面白い。
【真紅の滝】に【無限の樹海】。本でしか見たことの無い、すごい世界が広がっていた。
そして僕らはついに30階層に到達する。
そこは見たことないような街のような場所だった。
長く四角い建物のような人工物。草が突き出している地面は、なにか黒く硬いものでコーティングされている。
「「なんだよ……これ」」
これには僕とアルヴァの声が揃ってしまった。
「本当に不思議な場所」
「すげぇっす! なんなんすかこれ!」
ダンジョンにはまだまだ僕の知らない不思議で溢れている。改めてそう認識させてくれた。
「とにかく、進もう【
「うん」
30階層は進む事にピリピリとした空気を感じだ。
魔物のもあまり出てこない。出てきても小さく弱いものばかり、三人の体力を切らさないように、僕が弱い魔物を狩り続ける。
そしてついに奴は現れた。
「これが……【地界の
それは地上生物よりも遥大きく、遥かに強大なそれは僕らを軽く飲み込んでしまいそうだ。
不気味に結合したような体は大きな角のある異形の怪物の頭を中心にまとまっている。
「ヴアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「!」
ただそこに鎮座していたアライオンは、僕らを見つけるなり大きな鳴き声を上げる。
「なんて威圧だ」
「三人とも陣形を崩すなっ! 俺とクレイアが先行する、ラナンは後ろから援護を頼む! ゼノは
「うん!」
僕はバックパックからアイテムを取り出してアライオンに投げつける。
閃光弾だ。
その光とともに二人は一斉に走り出す。
僕は周りの弱い魔物が邪魔にならないように倒すことに集中する。
アライオンは体の一部を触手のように何本も伸ばしてアルヴァとクレイアに向かって伸ばす。
触手は巻き付くように二人を捉えようとするが、二人はそれを切り裂き、本体に近づいていく。
しかし、その触手の数はほぼ無限であり、無限に二人を襲う。
クレイアは途中で吹き飛ばされるもアルヴァは何とか本体に喰らいついた。しかし、アライオンの本体は高速で回転し、アルヴァを振り解き、さらに増える触手でアルヴァすらも吹き飛ばした。
はっきり言って強すぎる。
切っても消えないドス黒い触手の対応策がない限り、奴には近づけない。
ラナンはその光景に呆然と立ち尽くしている。
「ラナン危ないっ!」
ラナンに向かって一本の触手が放たれるがラナンは避ける気配がない。いや、避けれないと言ったところだろうか。
「!」
ラナンは直前で気が付き急いで避けようとする。
「ダメだ」
しかし、いつの間にか横に回っていたアルヴァによって、触手に向かってラナンは蹴られる。
そしてそのままラナンは触手に縛られる。
「アルヴァ……なにを」
「アライオン唯一の弱点は、食欲旺盛過ぎること。暴食ゆえに食事中はそれ以外に集中力を切らす。最も食べれれてしまうような落ちこぼれを連れているパーティーならその状態ですら殺されるがな」
「何言って……」
さらに触手ラナンに深く絡まり、締め付けていく。そして触手は他の場所への広がりが小さくなっていく。
「キャァァァァァァァァァァァァ! アァアアア」
「!」
ラナンの叫び声がダンジョン中に響き渡る。叫び声に紛れてラナンの骨が粉々になっていく音も聞こえてくる。
聞いたことがある。アライオンは捕食をするとき骨を粉々にして柔らかくして食べると。
「よしっ、クレイア行くぞ」
「ええ!」
二人は平然としている。
最初から狙っていたかのように。
「助けてぇぇぇえ! アルヴァ、クレイアぁあ!」
「しっかり抗えよ、お前が動けばアライオンはよりそっちに集中を持っていくからな」
「なんで、なんでよアルヴァ……アァアアア…………」
「ふっ、無様ね」
ついにラナンは意識を失った。
そしてその大きな頭でラナンの首を噛みちぎった。そして、齧られた首元からは血飛沫が吹き出す。
「ラナン……うっ!」
僕は見てられず吐瀉物を撒き散らしてしまう。
「よし、そろそろだ。行くぞクレイア」
「言われなくても」
二人は建物の上まで上がり、ガラ空きになったうなじ目掛けて剣を振り下ろしながら勢いをつけて飛び降りる。
「「ハァァァァァァ!」」
魔力を纏い落下エネルギーを付与した二人の剣はあっさりとアライオンの首を切り裂いた。
「弱点がガラ空きならこの程度か」
「ふぅ、無事に終わりましたね」
首を落とされたアライオンの体はぶくぶくと膨れ上がり、原型をトドメなくなれなくなったように爆散して、黒い液体が辺りに飛散した。
そして、力無き首のない死体が地面に落ちた。
血塗れでぐしゃぐしゃにされた原型が見えないそれはもはやただの塊だ。
「なんで……なんでラナンを!」
「仕方ないだろ、アライオンを倒すためだ。彼女も本望じゃないのか?」
「そうよ、ゼノ! 私たちが生きて勝ててラッキーって所じゃない?……それより見てこのステイタスすごいレベル上がってるわよ」
「ほんとだ、ラッキー!」
僕は二人に異様な嫌悪感を覚えた。
もしかしたら本当にあれが最善策だったのかもしれない。でも本当にそうだったのか僕には分からない。
「おい、ゼノ。早くその頭を回収してくれ、直ぐ上層に戻るぞ」
「……うん」
「おいどうしたよゼノ、そんな辛気くせぇ顔してよお」
ゼノはアルヴァに肩を組まれる。今はアライオンよりもアルヴァが怖く足が震える。
「もうちょっと遊べるとおもったんだけどなぁ」
「え?」
「いや、なんでもない早く帰るぞ」
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