第34話
椅子に座ると目の前に座っている男に視線を合わせた。年は30歳くらいに見える無精髭を生やした精悍な顔立つきに大人らしい包容力のある目をしていた。
確かこの人戦士団の団長だったはず。
昨日俺に話しかけてきた時は暗かったから顔が見えにくかったけど印象的な目ですぐに分かった。
「よう! 昨日はよく眠れたか?」
第一声はあの戦士団を率いる人とは思えないフレンドリーな会話から始まった。
「はい」
「やっぱり噂通りの美人だな! 俺が後10歳若かったら迷いなく求婚していたところだ! わっはっは!」
豪快に笑う姿は気の良いおじさんにしか見えない。
「団長……おふざけはそのくらいにして……」
今団長向かって発言した女性は団長の横に立っていてその姿はまだ若く見える。多分20代後半くらいだろうか。それでも着ている服は位が高い人に見える豪華なものだった。
「おお! すまん! 美人を見るとつい舞い上がってしまうんだよ。俺は戦士団の団長をしているランドシスだ。まあランドと呼んでくれ。改めて礼を言いたい。昨日は本当に助かった。君がいなければどれだけの被害が出たか考えるだけで恐ろしくなる」
「いえ、当然の事をしたと思っています」
俺の返答にランド団長は何か驚いているように見える。
「君は本当に見返りを求めないのだな。あれだけの事をしたというのに」
「同じ学校に通う仲間なので助けるのは当たり前です」
「戦士団は職業柄常に危険が付きまとう仕事だ。死人も少なくない状況で今回未来の有望株を多く失うところだった。それを救ってくれたからには何か礼をしたいのと……あとは頼みがあってここに来た」
「頼みですか?」
「その前にひとつ訊きたい。君は知っていると思うが魔物の感染症はひとつだけではない。君は他の感染症も治す薬を作れるのか?」
「……はい」
「何ですって⁉︎ 貴方は何処でそれを!」
隊長の隣にいた女性は身を乗り出して俺に詰め寄ってきた。
「セリス‼︎ 詮索はしないと決めただろ?」
「は! すいませんでした!」
ランド団長の一喝に女性はビクッとするとすぐに元の位置に戻った。
「すまないな。実は昨日戦士団の中で議論がされていたんだ。君が何者なのか調べるべきだといった意見もあったがもしも変な詮索をして君がいなくなってしまったら全てが台無しだ。せっかくの希望の光が消えてしまう」
正直俺もそれを覚悟をしていた。尋問を受けるんじゃないかと。最悪ランド団長が言った通り姿をくらませるのも仕方ないと考えていた。
「じつは最近見慣れない魔物が姿を現すようになっていてな。戦士団では今かなり神経を擦り減らしながら戦っているんだ」
「じゃあ昨日の事件も?」
「ああ、珍しくない。学校にも気をつけるようにいったんだがな。まさか強行するとは思わなかった」
団長は離れた場所に座っていた校長をひと睨みすると校長はサッと下を向いてしまった。これを見ると団長はかなり身分がいいのではと思ってしまう。
「話を戻すが率直に言えば魔物の感染症を治す薬を作って欲しい。戦士団員は家族持ちも多い。魔物の感染症は死ぬのと同じで皆それを恐れて中々手を出し辛い状況が続いているんだ」
「もしも治す薬があれば今まで放って置いた幾つもの討伐作戦が可能になります。是非お力を貸して欲しいのです」
「分かりました」
「おお! 感謝する!」
「ありがとうございます!」
「しかし、私は学生ですので誰かに教えてもいいのですが」
「すまんが戦士団に薬師はいないんだ。国に仕える薬師を呼ぶ手もあるが俺達的には嫌だ」
「そうですね。国は魔物退治は戦士団の仕事だと何も協力してきませんから。私も反対です」
何か国との間で色々と確執がありそうな会話にどうしようかと考えた。
「では私に考えがあります」
「ほう、それはありがたいな。是非聞かせてもらおう」
俺は前より考えていた事を話すと見事に採用されたのだった。
やっと解放されたのは午前が終わった頃で、俺は教室に帰って行った。
「お! 帰ってきたな!」
カイルが俺を見るなり声をあげると他の皆も俺に気付いて視線を向けた。
「で? なんの話だったの?」
カーラは興味津々に俺にそう訊いてくると他の皆もうんうんと頷きながら俺の答えを待っていた。
「実は……」
俺はランド団長とのやりとりを聞かせた。
「やっぱりそうだと思ったわ。セイナがいれば戦士団は凄く助かるものね」
フェルナは大体の事を予想していたようで答え合わせが終わって納得した様子だった。
「で? あなたは何て答えたの?」
そこで俺は思い切って皆んなに話を持ちかけることにした。
「これは皆さんに提案なんですが私と薬店を開きませんか?」
実は俺はこのメンバーで街に薬店を開きたいと思っていたのだ。皆んな俺の教育によって腕を上げているし、やる気もあるからきっと成功すると踏んでいる。
「マジかよ……」
「急に凄い事を言うわね……」
「わ、私にできるのかな……」
しばらく皆は考えるように黙ってしまったが1人だけ頷く人物がいた。
「面白そうね。セイナがいればなんでも成功する気がするから私は良いわよ?」
フェルナは考えることもなく了承してくれたのだ。
「確かに私もそんなきがしてきたわ。あなたと一緒に仕事ができるなら人生楽しそうだわ」
次にOKを出したのはカーラだった。
「おお! 俺も乗ったぜ! きっとこの船に乗んなきゃ後悔する気がする!」
今度はカイルが乗ってくれた。
「わ、私も良いよ? 自信がないけど皆んなとやれば楽しそうだし!」
最後の1人であるメルも加わってくれた。
「ありがとうございます。店を出すのは学校を卒業してからですけどそれまでは戦士団に薬を提供する仕事が沢山あるので皆で協力していきましょう」
「それって感染症を治す薬よね?」
「はい、戦士団には薬師がいないですし、感染症の薬を作るのは高い技術がいるんです。だからそれを皆さんに会得してもらって戦士団に売るんです。団長さんが高く買ってくれると約束してくれたのでそれだけでもお店は潤うと思います」
「なるほどな! 魔物がいる限り薬は売れるしな。他の薬も売れば間違いなく大繁盛って訳だな」
「そうね。でも、それを実現するのは私達次第って事ね。なんだかやる気が出てきたわ」
「ありがとうございます。いきなり巻き込んでしまってすいません。特にカーラさんとカイルさんには他の夢があったのに」
「そんなのよりこっちの方が全然楽しそうだ!」
「私も同じよ。国の薬師になるより楽しそうだわ」
ふたりの答えに再び感謝するとこれからの予定を話した。
「まずは皆さんに感染症を治す薬の作り方を教える前に感染症についてなど教えることが多いいのでこれからは学校の授業は全て私が教師になって教えます。もちろんこれは先ほど校長と話して決定した事なので安心してください」
「何よ、全部決めてきたって感じね」
「ふふ、皆さんならやってくれと信じてましたから」
それは紛れもない本心だった。
学校が終わると俺は隣に歩いているフェルナに話しかけた。
「フェルナ? 今度なんだけど私の生まれ故郷に一度帰ろうと思うんだけど一緒に来てくれないかな……」
それを聞いたフェルナは大いに喜んびながら頷いてくれた。
「嬉しいわ。あなたが生まれた所に行ってみたかったから」
「ありがとう。私も嬉しい」
フェルナと一緒に行けると思うと嬉しすぎてその日から毎日、帰る日が待ち遠しくなるのだった。
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