第31話
賑やかな夕食を終えた後俺は身支度をしてテントに入っていった。
テントは当然男女別だ。中に入るとマリルとミリナが真剣な顔をしながら話をしていて、その話題がなんなのか少し気になりつつも自分の寝床についた。
「やっぱりルークが一番かな〜」
「そう? まだ頼りないわ」
「それはしょうがないよ〜 まだ経験が足りないんだもん。実力からいったら私達の学年の中で一番を争うし、顔も悪くないから将来有望だよ!」
何の話をしているのだろうか……
「話が気になる?」
隣で寝ていたと思っていたフェルナが突然話しかけてきた。
「起きてたんだ。何の話をしてるの?」
「未来の旦那さんは誰がいいかについてよ」
そんな事を話してたのか……二人とも結構真面目な顔をしていたからなんだと思ったよ。
「もうそんな話をしてるの? ちょっと早すぎじゃない?」
俺は小声でフェルナに返した。
「そんな事ないわよ?」
後ろからマリルに言われてびっくりした。まさか聞かれていたとは……
「そうだよ! 結婚は18歳までにしないと親に心配されちゃうんだから!」
そうなんだ、この世界はそれが当たり前なんだろうな……そういえばうちの両親も凄く若いし、カリスさんとエリアさんも18歳で結婚したって言ってたから早いなとは思ってた。
「貴方はしようと思えばすぐにできそうだからいいけど私達戦士団志望は訓練が忙しくて難しいのよ。だから今のうちに目星を付けておきたいってわけ」
「大変ね」
マリルの話に他人事のような返答をしたフェルナ、彼女は結婚に対してどう思っているのだろうか?
「貴方も容姿はいいけどそんなに世の中甘くないわよ?」
「そうそう! 薬師っていうだけで大変だと思うけどなぁ〜」
「別に私は18を過ぎてもいいと思ってるから」
「嘘⁉︎ 絶対後悔するよ〜」
「変わった子ね……そんな事を言う人を初めて見たわ」
実は俺もフェルナと同じ事を思っていたけど口に出しては言えなかった。まあそれ以前に男と結婚自体無理だけどね。
うーん……眠れない。
テントの中はそんなに寒くないから問題ないけど何故か俺の頭から結婚という文字がなかなか消えずに残っていて、将来を考えた時、モヤモヤしたものが俺の眠りを妨げていた。
少し風に当たるか……
皆はすでに眠りについているらしくスースーという寝息が聞こえた。
起こさないようにテントを出ると川が流れる岩に腰を下ろす。布に包まりながら火を起こして暖をとると心地の良い水の流れる音に癒されていた。
フェルナはああ言ってたけどいつかは誰かと結婚して……
そう考えるだけで心がざわついてくる。それが何故なのか……彼女が親友だから? 一緒にいて居心地がいいから? よく分からない……
「どうしたの?」
なんで彼女はこんなにタイミングよく現れてくれるのだろうか……
フェルナが心配そうな顔で俺の元に近づいてきていた。
「寝れなくて……」
「そう……私もなの」
どうしたんだろう? フェルナがそんな事を言うなんて驚いた。
「やっぱり寒いわね。私も包まるものを持ってくれば良かったわ」
フェルナが寒そうにしていたのを見て俺は自分の布を広げた。
「入る?」
「良いの?」
俺が頷くとフェルナはちょっと恥ずかしそうにしながら俺に密着してくると布を掛けた。
ヤバい……ドキドキが止まらない……
彼女の温かい体温が伝わってくると緊張しつつも幸せな気分に包まれた。流石に恥ずかしくて彼女の顔は見れなかったけどこの瞬間がずっと続いて欲しいと思えた。
「フェ、フェルナは将来をどう考えているの?」
俺はさっきから気になっていた事を訊いた。すると少し間が空いた。すぐ横にあるフェルナの顔は何か考えるようにじっと前を見ていた。
「よく分からないの……私は今の生活がとても好き……毎日が楽しくてしょうがないわ。それはあなたがいたからよ」
「ありがとうフェルナ、私も同じよ」
フェルナの言葉に俺は飛び上がりたいくらいに嬉しかった。
「だからかしら……いつかこの生活が終わってしまうと思うと怖くて……お母さんにも早く結婚を考えなさいって言われることがあるわ。それでもやっぱりそんなに早く結婚する必要があるのか分からないの」
「そうなんだ……」
「セイナは? あなたはすぐにでも結婚したい?」
フェルナの顔は何か寂しそうだった。
「え?」
「セイナはマリルが言ってたみたいにすぐにでも結婚できる人だから……もしも急にそうなったらと思ったら急に怖くなって……」
彼女の潤んだ目を見て俺の心が揺れる。それを落ち着かせようと深く深呼吸すると彼女に答えた。
「私、多分結婚はしないと思う……」
「どうして?」
「私は変わってるから……男の人に魅力を感じないの」
こんなカミングアウトを聞いたら彼女はなんて思うのか、言った後に少し怖くなった。
「それは私にとっては良い事ね。もしかしたらそれを超える人が現れるかもしれないけどしばらくは無さそうだから少し安心したわ」
「え? 私の事おかしいと思わないの?」
「思うわけないでしょ? まだ会ってから少ししか経ってないけどあなたの事は分かっているつもりよ?」
嬉し過ぎて抱きしめたい衝動を抑えるのが大変だった。
「決めたわ」
「え? どうしたの?」
「あなたがそう言うなら私も結婚はしないわ。あなたの気が変わるまでずっと側にいたいから」
「フェルナ……」
「ふふ、私も変わってるわね」
フェルナの笑顔に吸い込まれそうになる。このままだと彼女に恋をしてしまうだろうと俺の中でそれは確信に変わろうとしていた。
次の日は朝から神聖の祠に向かって歩いていく。道中魔物に出会ったけど昨日と同じ奴だったから苦なく進んでいたが何やら騒がしい音が遠くから聞こえたのだ。
「何だ? 何かあったのか……?」
「見て! あちこちから煙が上がってる!」
ミリナの指す方には幾つも煙が立ち上がっていて明らかに何かあったようだ。
「どうする⁉︎ 俺達も煙をあげるか⁉︎」
「とりあえず情報が欲しいわ! 煙を上げて先生を呼びましょ!」
ルークはそれを聞いてすぐに煙を上げた。しかし、いつになっても先生が現れる事はなかった。
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