第30話
「来るぞ!」
ルークの叫び声と共に草むらから2つの真っ黒な物体が暗闇に紛れるような形で飛び出してくると赤く光る目が暗闇に浮かんだ。アークリーから魔物は目が赤く光る特徴があると聞いていたから俺でもそれが魔物だとすぐに分かった。
「良かった! あの魔物なら戦ったことがあるわ!」
後ろからマリルが飛び出してくると奇声をあげながらこちらに向かってくる魔物に持っている槍を向けた。
「は!」
ルークの剣が1匹の魔物を捉えると真っ二つに切り裂いた。そしてもう1匹の魔物にはワイスの矢が突き刺さり、倒れたところをマリルの槍が止めを刺した。流石に訓練されていると思わせる見事な戦いぶりは安心して見ていられるものだった。
「よっしゃ!」
「楽勝だったな!」
ルークとワイスがハイタッチして勝利を喜ぶとその場が活気付いた。さっきまで緊張感が漂っていた重たい空気は無くなり、皆の顔に笑みが溢れている。
「当たり前よ! いつも訓練で戦ってる魔物じゃない」
マリルも初勝利が嬉しかったのか、さっきの緊張した顔が心なしか緩んで見える。
「さあ、もうすぐ日が落ちてくるから早く水場を見つけよう!」
先程の戦闘で余裕ができたのか、軽快な口調のルークの声に皆は元気よく頷き、また歩き出すその足取りは前よりも軽かった。
「あ! 水の音が聞こえるよ!」
しばらく歩いていた時、ミリナの大きな声に俺も耳を澄ませてみると、確かに勢いよく流れるザーッという水の音が聞こえる。
「これでやっと休めるぜぇ……緊張の連続でクタクタだ……」
タイラーのホッとした声に皆も同意したように頷いた。
水の音がする方へ進路を変え、皆は夢中で歩き出した。
「小さい滝があったぞ‼︎」
先頭を歩いていたルークの喜びが爆発したような大きな声でその場が湧いた。俺達の前に小さな川が姿を現すと皆が我先にと走っていった。
「ああ〜 気持ちいい〜」
「水がうめぇ!」
皆は寒いのも忘れて川に次々と手をのばすと、美味しそうに水を飲み始めた。俺もそれを見て透明で綺麗な川の水を手ですくうと一口飲んだ。
ふぅ……久しぶりに水を飲んだから落ち着くな……
冷たい水が体に染み渡ると近くの岩に腰を下ろす。
皆は青春を謳歌しようと川で遊び始めた。よく考えたら俺達はまだ14歳。こんな場所に来たらそうなる。
「皆んな楽しそうね」
フェルナが微笑みながら俺の隣に座った。
「フェルナも遊んでくれば?」
「ふふ、私はそんな歳じゃないから……」
「え?」
どういう事?
「なんでもないわ。私はこうしているのが好きなの」
フェルナは14歳と思えない落ち着きがあるんだよな……確かにお母さんの事で苦労してきたとは思うけど。
「じゃあ俺達はテントを建ててくるから夕飯よろしくな!」
空が暗くなってきた所で男達がゾロゾロと移動を始めると残された俺達は顔を見合わせた。
「え〜と……私達がご飯作るんだね……」
ミリナはいつもの元気が全くない声でそう言った。それから少しの間無言が続くと俺が話を進める事にした。
「皆さん何か食材を持って来ていますか? 後、何かできる料理があれば教えてください」
そう言ってからまずマリルの顔に視線を移すと一瞬マリルの目がサッと逃げた。
「わ、私達戦士団志望は食料は現地調達がき、基本なのよ……そ、それにまだ私は野営とかした事ないから……」
要するに料理は無理らしい。それ以上何も言わなかったので今度はミリナに視線を移すとミリナはドキッとしたようにあたふたし始めた。
「わ、私が料理なんてできると思う? 火! そう! 火なら起こせるから!」
自分は火を起こす担当だと何故か胸を張っているのがよく分からないけど諦めて横にいるフェルナに向いた。
「まあ、お母さんにご飯を作っていたからある程度はできるけど道具がないからどうかしらね……食材も荷物が多くて持って来れなかったの」
最後の頼みであるフェルナもダメときて少しでも食材を持って来た自分を褒めたい気分だった。
「私は食材を持って来ているのですが、それだけでは足りないのでこの森にあるきのこや薬草で補いましょう」
「おお! さすがセイナちゃん! 頼りになる〜」
ミリナは俺にキラキラした目を向けてはしゃいでいた。
「まずは食べられるものを教えるんで皆んなで取ってきてもらえますか?」
俺は皆を連れて食べられるきのこや薬草を教えると夕食の準備に取り掛かったのだった。
「まあ、作れると言ってもカーストとスープだけだけどね」
俺の持ってきた食材は薬草とかを優先した為カーストの粉と干し肉に調味料だけにしていた。一応男連中にも聞いたが戦士団は現地調達が当たり前らしく何も持ってきてないと言われた。ルーク曰く戦士団は荷物を極力抑えたいから食料は現地調達にしているらしい。
密かに呼び出したアークリーに手伝ってもらって美味しいきのこや薬草を選んでもらいそれを皆に教えた。準備をしている俺に次々ときのこや薬草が集まってくるとそれを使ってカーストとスープを作ることができたのだった。
「美味そう……ゴクッ」
一番に座ったミリナがそう言いながら早く食べたいのを我慢している姿が可笑しくて微笑ましい。
焚き火を囲むようにして皆が座ると目の前の料理に目が釘つけになっている。カーストの香ばしい匂いと熱々のスープから漂う美味しい匂いにあちこちからお腹の鳴る音が聞こえる。
「どうぞ食べて下さい」
俺の言葉が合図となって皆が一斉に動き出すと、片手にカーストを持ち、もう片方の手にはスープの器を持って次々と口に詰め込み始めた。
「んぐ! まさかこんなところでカーストを食べられるなんて思わなかったよ!」
「ゴクゴク! はぁ〜 う、うめぇ!」
「ほんと! 美味しい〜 カーストもふわふわであったかいスープも疲れた体に染みる〜」
「美味すぎる! こんなにうまいカーストは初めてだ!」
目の前の料理を夢中で頬張り、幸せそうな笑顔をしているのを見ると口にあったようだ。
「でもさ、あの銀髪の美聖女がこんなに凄く良い人なことに驚きましたよ」
食事が終わり休んでいるとルークは俺の事を話し始めた。
「ああ、全然噂とは違ったな〜」
ワイスの言葉に苦笑いしかでない。きっとロクな噂ではないとこの前メル達から聞いて分かっていたからだ。
「私が聞いた噂だと銀髪の美聖女は凄く我儘なお嬢様だって。だから正直今日は少し行きたくなかったのよ」
そういえばマリルが最初に俺を見た時に少し嫌な顔をしていたかもしれない。
「俺はそれでもセイナさんをこんなに近くで見ていられるなら構わないけどな」
「きっと変な噂を流してるのは貴族の馬鹿どもだな。あいつらセイナさんを執拗に狙ってるからな」
タイラーとワイスの話で嫌な事を思い出してしまった。
「ごめんなさいね、本当は皆んなあなたを助けたいけど貴族と揉めると面倒な事になるからうかつに手を出せないのよ」
「大丈夫です。最近は相手にしてないので」
「特にアイツ、エラルドには気をつけた方がいいですよ。時期国王だって言いふらして好き勝手やってる。なんでも手に入ると勘違いしてるからどんな手でも使ってくるかもしれない」
「ルークさん忠告ありがとうございます。でも、私は権力には屈しません」
まあ、何かしてきても力で返せるしな。
「よし、そろそろ寝ようか。明日は朝から出発だからな」
ラスターの言葉でその場を解散するとそれぞれ寝床についていった。
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