第28話
いつものように授業を受けていた時だった。先生から今度学校行事があると聞いたのだ。野外授業らしく、他のクラスの人達と組んで街の外にある神聖の祠という場所を目指して深い森の中を進んでいくらしい。
「大丈夫かな……魔物とかいるんだよね?」
その話を聞いた後の休憩中、メルは野外授業の事を心配しているようで、顔を強張らせながら不安を口にした。
「付き添いの先生もいるし大丈夫じゃない? それに戦士科の生徒もいるんだから」
「そうそう! 俺達は後ろから応援してればいいんだよ! どうせ薬師志望なんてお荷物くらいにしか思ってないだろうしな」
メルとは対照的にカイルとカーラはお気楽モードみたいだ。
俺はというと他のクラスの人と交流できるのが少し楽しみだった。この学校には部活とか生徒会などが一切なく、他のクラスとは同じ学校に通っているのに授業が終わる時間が違うから接触する機会がないのだ。
何というか小学校の遠足を思い出すわくわく感がその日が来るまで続いていたのだった。
野外授業当日の朝。
家を出る前に鞄の中を開くと、敷き詰められた薬草をひとつずつチェックする。魔物がいる森と聞いていたから念のために薬草を多めに持っていく事にした。森で野営するのもあって少し荷物が多くなってしまうのが辛いところだ。
家を出て待ち合わせていたフェルナも今日を楽しみにしていたらしく、道中の会話も弾んだ。
できればフェルナと一緒だと嬉しいけど薬師科は数が少ないからなぁ……
そんな事を思いつつ学校に着くと早速組むメンバーが発表されていた。驚いたのがフェルナが同じメンバーに入っていた事だ。
やった! と心の中でガッツポーズをするとフェルナに視線を向ける。すると彼女も満面の笑顔で俺を見ていた。
「良かったわ! セイナがいてくれると心強いから……」
フェルナの嬉しそうな言葉に舞い上がってしまいそうだ。
「私もフェルナと一緒がいいなって思ってたの! 行こ!」
嬉し過ぎてつい大きい声を出してしまった。
そんな俺を見てフェルナが「ふふっと」と微笑んだ。
やっぱりフェルナは可愛いな……
彼女の笑顔は俺の時を止めてしまう魔法のようだった。
ふたりで楽しく会話をしながら集合場所に向かうと校舎の前には多くの生徒でひしめき合い、大いに賑わっている。
ガヤガヤとそこら中で会話がされていた所で俺が出ていくとそれはドヨめきへと変わった。周りの視線を一身に受けるも今の俺にはひとつの乱れもない。それとは対照的に気まずそうなフェルナを連れて歩き出した。
「あ! こっちでーす!」
遠くの方で満面の笑みで俺達に向かって大きく手を振る女子がいた。既に他のメンバーは集まっていたようだ。
「セイナです。宜しくお願いしますね」
俺はこれから一緒に行動する5人のメンバーに笑顔で挨拶をした。すると、5人のうち3人の男達は顔をデレっとさせて俺を見ていた。
「ああ……やっぱり綺麗だ……」
手に槍を持った普通の見た目をした男子は俺に見惚れて鼻の下を伸ばしている。
「明日までずっと一緒に居られるなんて……最高に幸せだ……」
その隣にはゴツい鎧をきた男子が同じく俺に見惚れている。
「俺! 絶対にあなたを守ります!」
一歩前に出てくるなり正義感の強そうな目をした、なかなか整った顔立ちの男子が俺にそう宣言した。
「馬鹿野郎! 俺が守るんだから邪魔すんな!」
「お前は俺の援護でもしてろ!」
「何だと!」
先ほどの俺に見惚れていた男子達が急に目が覚めたのか前に出ていた男子を挟んで口論が始まった。
「はは……」
目の前で繰り広げられるつまらない言い争いにこの先が心配になると、俺の笑顔が苦笑に変わった。
「あんな馬鹿共は気にしないで良いから。私はマリルよ。戦士団志望なの」
マリルは体が大きく、短髪だったから最初は男かと思った。その体に合う大きな剣を携えていた。カーラよりも気の強そうな男まさりな女子だ。
「私はミリナでーす! 魔法科に通ってるの! 宜しくね!」
ミリナは髪を金色に染めていて服装も軽装で派手にコーディネートされている。その姿同様明るい性格のようだ。
「薬師科のセイナです」
「同じくフェルナよ」
俺とフェルナも挨拶を返す。
「私達は薬師科ですので何か怪我とか体調がすぐれない時は言ってください」
薬草は多く持ってきているから恐らく何があっても対処できるはずだ。
「助かるわ。その分戦闘は任せてね」
「あ、そろそろ行くみたいだよ!」
かくして新しい仲間と共に短い旅が始まるのだった。
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