第25話
時間が経つのも早いもので、学校が始まった肌寒い季節から暑い季節に移り変わっていた。あっという間に感じたのは再び学校に通えるのが嬉しくて毎日が楽しかったからだと思う。
最初はあれだけ注目を浴びて騒がしかった学校生活も今は静かになってきていた。相変わらず一部の貴族達に校門で待ち伏せされるけど、大体の人は見ているだけで何もしてこないから前に比べたら全然楽になっている。
「トメルの薬草は根を取らないと危ないので注意ですね。あとは葉の裏に斑点があったら絶対に使わない事です。よく確認してください」
最近では俺の薬に対する知識が凄いとバレてしまい、授業の合間に皆んなから質問を受けるようになっていた。今もあまり使われないトメルという薬草のことが知りたいとメルから質問されてその特徴を説明していた。
「へぇ〜 この薬草ってお料理に使うだけじゃないんだね! いつも気になってたんだぁ〜 ありがとうセイナちゃん!」
メルに嬉しそうな声で感謝された。
「相変わらず詳しいわね。どこでそんな知識を持ったのかしら」
カーラがいつの間にかメルの隣に来ていて、俺の説明を聞いていた。
「めちゃくちゃ勉強になるぜ!」
後ろに座っていたカイルも話を聞いていたらしい。
最近何故かクラスメイト達が熱心に勉強をするようになっていた。あのやる気の無かったカイルが真面目に授業をしている姿に違和感しかない。
「セイナちゃんの説明って凄く分かりやすいから聞いてて楽しいね」
メルからそう言われると素直に嬉しい。最近人に教えるのがこんなに楽しいんだと感じ始めていた。
「まさか先生より知識があるなんて思わなかったわ。あなたに聞けば何でも答えが返ってくるんですもの。何でここに通ってるのか不思議なくらいよ」
俺が詳しすぎるせいか、カーラは最近先生より先に俺に分からない所を訊いてくるようになっていた。
「ほんとだよな! 俺も最初はなんとなく聞いてるだけだったけど、話が面白いから今じゃ楽しみになってるよ」
カイルがそんな事を言うとは驚いた。授業中は大体寝てるのに……そんなに面白いのかな?
そして……以前は名前も知らなかった少女はフェルナという名前だと分かった。まだ会話はできてないけど授業の合間に始まる俺の特別授業を聞いてないフリをしながらもコソコソと紙に書いていたり、何か訊きたいのか、チラチラこちらを見ているのが吹き出しそうになる。
「質問なんだけどさ。トメル草で何の薬ができるんだ?」
カイルからそんな質問が来た。
「そう、私もそれが知りたかったの。両親に訊いても分からないって言われたのよ」
俺自身トメル草を今まで使ったことは無くて、知識があるだけだ。それはあまりにピンポイント過ぎて使う機会が無かったからだ。
「うちではお料理に使うから最初薬草って聞いて驚いたんだ! でも、カーラちゃんのお父さんが知らないんだったら使い道はないのかなぁ?」
当然薬が重要視されていないこの街ではトメル草が薬草だと知らない人も多いだろう。でも、実際にはある難病に効く薬を作る際、絶対必要な物だとアークリーから聞いている。
「ありますよ。硬化病に効く薬に使うん……」
ガタッ‼︎
「え?」
いきなりデカい物音に思わず辺りを見回すとフェルナさんが椅子から立ち上がって俺を見ていた。
その表情は驚きに満ちている。
「あ……」
するとフェルナさんは気まずかったのか。しまったという顔をして、そのまま教室を出て行ってしまった。
「なんだあれ?」
不思議そうに首を傾げながらカイルが呟く。
「そ、それより‼︎ 今なんて言ったの⁉︎」
フェルナさん同様の驚いた顔をしたカーラに詰めよられた俺は椅子から落ちそうになった。
「わっ! え? だから……硬化病に効くって……」
慌ててそう返すとカーラは唖然としていた。
「し、信じられないわ……硬化病を治す事ができるなんて聞いた事がない……あれは不治の病と言われてるはずよ」
「す、すげえ! そんな薬があったら大儲けできるぜ!」
流石商人の息子だと分かる言葉だ。でも、あいにく俺は金儲けはしないと決めているからカイルには悪いけど安く提供するだろう。
「この街の病院には硬化病で苦しんでいる人が何人かいるわ。滅多に罹らない病気だから治す手立てが分からないのよ」
知らなかった……身近にそういう人がいないと分からないもんだな。
俺は学校が終わると考え事をしながら歩いていた。
硬化病ってどんな病気なのかな?
そこで俺の知識が薬の作成方法と薬草の扱い方に集中していた事に気付いた。
薬で治す病気の症状はどんなものなのか、俺の中でそれは医師がやるものだとスルーしていたのだ。でも、これから本気で薬師を目指すならそれも必要になってくるはずだ。アークリーがいるから分からなくても教えてくれるけどそれじゃダメだと思った。アークリーがいつまでも一緒にいてくれる確証はないから、いつまでも甘えている訳にはいかないと考えを改める事にした。
そんな時だった。
校門にさっき一足早く帰っていたはずのフェルナさんが立っていたのだ。
どうしたんだろ? 誰か待ってるのかな?
彼女はじっと前を見ていて、声をかけるような雰囲気ではなかった。
とりあえず挨拶をして帰ろう。
「フェルナさん、さような……」
そう言って前を通り過ぎようとした瞬間いきなりフェルナさんにガシッと腕を掴まれていた。
「え⁉︎ ちょっと!」
突然のことに動揺してしまった俺はそのまま手を引かれて何処かに連れていかれたのだった。
俺の腕を掴む力は強くて少し痛い、何か必死さを感じたものの彼女は無言を貫いている。
これは多分何を訊いても答えてはくれないと諦めて、大人しく付いていくことにした。
そして着いたのは建物が群がる場所だった。
そのうちの一軒家の前に来るとフェルナさんがドアを開けた。無言だけど入れという事だろう。それを見た俺は中に入っていった。
何もない部屋というのが最初に思ったことで、ただベッドが置かれ、そこに眠る女性を目にすると近づいていった。
「これは……」
その姿に絶句した。
布団から出る腕が真っ白な石のようになっていたのだ。
もしかして……
俺は全てを察した。
「アークリー……」
(どうした? む……これは酷いな)
呼び出されたアークリーは目の前で眠る女性を見て状況を察したみたいだ。
背中からフェルナさんが近づいてくるのを感じた。すぐ後ろに気配を感じる。
「お願い助けて……お母さんが居なくなったら私……ひとりになっちゃう……」
すぐ後ろからフェルナさんの泣きそうな声を聞いた瞬間体が震えた。啜り泣くフェルナさんを優しく抱きしめ、大丈夫だと声をかけてあげたい衝動に駆られるが今はそれよりもやらなければならないことがあった。
「今すぐに薬草を持ってくるから! 待ってて‼︎」
俺は勢いよく家を飛び出すと急いでうちに向かって走り出した。
「アークリー! あそこまで進行していても大丈夫? 薬で治るの?」
全力で走りながらアークリーに話しかける。
(……手遅れかもしれんな。腕が石化している所を見るとかなり末期の状態じゃ)
「じゃあ薬じゃあダメなのか……」
それでも俺には奥の手がある。全てを解決してくれる魔法の薬が……
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