第24話
ふぅ……
トカゲもどきを倒す事に成功した俺は大きく安堵の息を吐いた。最初に見た時には勝てる訳がないと思っていた相手を簡単に倒してしまった事に違和感しかなかった。
「……一応訊くけど、あの魔物は強いんだよね?」
(疑り深いのう。あやつは魔物の中でも上位に君臨する化け物じゃぞ? 街からそんなに離れていないのにも関わらず何故放置されていたか分かるか?)
「何でって……倒せないから?」
(そうじゃ、恐らくあの魔物を倒そうとしたら国中の戦士を集めてやっとのはず……それも多大な被害が出るのを計算してな。それほどの奴だと言う事じゃ。それをお主は簡単に倒してしまった……わしが何を言いたいのか、もう分かるな?)
よく考えると恐ろしくなる程自分の持っている力がデカいことがよく分かった。
「何でこんな力を持っちゃったのかな……」
そんな疑問が出るのは当たり前の事だった。こんな力を与えられた意味がないはずがない。
(さあな。だが、お主から色々と話を聞いていると誰かは知らぬがお主をこの世界に呼んだ者は、ただ純粋にお主の願いを叶えてやりたかった……そのような気がするのだ)
そう考えるとその人(?)は俺が入院している時にはすでに俺を知っていたはずだ。それも妄想をしていた1ヶ月の間ずっと……
「俺に何かさせたいのかな」
(もしもお主に何かをさせたいと思うならすでに伝えているはずじゃ。それをしないのならば考える必要はないと思うぞ)
「そっか……そうだよね。せっかく恵まれた体で人生を歩ませてくれるんだから楽しまないとね」
(お主のやりたいように生きればいいのだ。まだそんな事を考える歳でもなかろう?)
「ありがとう……アークリーに会えて本当に良かったよ」
ただ知識を与えてくれるだけじゃない。何度アークリーに励まされたか……本当に色々助かってたし、これからもずっといて欲しいと思う。
(照れるからやめい! ふふっ! これから時間がある時はわしが戦闘の極意を授けてしんぜよう!)
「え? アークリーって戦闘もできるの?」
(わしは武器を持って戦闘しないがこの智謀で敵の弱点や思考を看破して味方を援護していたものだ)
「そんな事をされたら相手はたまったもんじゃないね」
アークリーが敵にいたらと考えるときっと俺は恐ろしいと思うだろう。もしかしたらアークリーが生きていた時も他の国に恐れられていたんじゃないかと思った。
(魔物は知性がないから戦闘は簡単じゃ、攻撃パターンを把握してそれに注意すればいいのだからな。しかし、人間相手ではそうはいかん。いかに相手が何を考えているのかを読み、反対にこちらもそれを悟られないようにする。強くない者が相手なら力で押し返せるが強い者同士だとこの読み合いが重要となってくるのだ)
「なるほどね。経験がものをいう世界なんだね」
(うむ、多くの死地を潜り抜けてきた者ほど強い者が多いな)
気付けば空がオレンジ色に染まっていた。
「そろそろ帰らなきゃ」
次の日から俺は付き纏ってくる輩には付き合わない事にした。今までは立ち止まってたけど今日の朝は皆にただ一言断りを入れて横を通り過ぎていった。
俺の態度の急変にどいつも茫然としていたのがやり返した感があってスッキリする。
もう見えない圧力を気する必要はない。俺にはそれをはねのける力があるんだから。
「おはようございます」
さっさと教室に来れたおかげで凄く気が楽だ。久々にクラスメイトとの挨拶で笑顔になれた気がする。
「あら? 今日は早いのね。またどこかで足止めを食らっているのかと思ったわ」
クールな女子カーラは俺を見て少し驚いた顔をしていた。
「もう無駄な時間を取られたくないので」
「すごいね……貴族の人達の誘いをキッパリ断るなんて私にはできないよ」
メルが俺に羨望の眼差しを向けている。
「アイツらは庶民より偉いと思ってるのか、いちいち下に見てきてムカつくんだよな。ほんとに校舎が違くて良かったぜ」
カイルはいい気味だと笑っていた。
「そういえば彼女は今日も遅いんですね」
いつもギリギリになってやってくる女の子の事だ。
「ああ、もう学校が始まって結構経つけど名前も知らないなんてあるか⁉︎ 幾ら声をかけても無視しやがってよ」
「もういいわ。私、このクラスは4人だけだと思ってるから」
カイルとカーラはかなり怒っている様子だ。俺も声をかけてみたけどやっぱりダメだった。
ただ一言……わたしに構わないでと返された。
彼女を見ていると何かに追われているような焦りを感じた。ギリギリに登校して授業が終わればすぐにいなくなる。何か事情がありそうだけど訊いても教えてくれないだろう。
「何か事情があるのかな? 授業は凄く真面目に受けてるから薬師を目指して来ているとは思うんだけど……」
メルは彼女の事を一番気にしていて、沢山声をかけていた。いくら邪険に扱われてもめげずに声をかけ続けている姿に、俺はメルの事を良い子だなと感心して見ていた。
「そうですね。せっかく同じクラスになったんですから仲良く卒業したいですよね」
俺もメルと同じ気持ちだった。あの子の目に優しい光が隠れている気がする。ただの勘だけど今まで優しい人に沢山出会ってきた俺が間違うはずがない。
そして彼女が教室に入って来ると俺とメルが挨拶をしたけどやっぱり返事はなかった。
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