第23話

「やあ! 待ってたよ」


 はぁ……またか。


 俺は朝から貴族の連中に2度目の足止めを受けていた。さっきやっと解放されたと思ったらこれだ。流石に深い溜め息が出てしまった。


「……何か御用でしょうか?」


「君を迎えに来たよ。その美しさ、是非とも側に置いておきたい」


 俺の嫌そうな態度もお構いなしにとんでもない事を言ってきやがる。


 俺は物かよ……


「お断りします」


 コイツも毎日俺を待ち伏せしてくるし、多分この後も何人かに絡まれるだろう。本当にしつこくて何度断ろうと構わずやって来るからタチが悪い。


「いいのかい? 僕は将来この国の王になるんだ。一生不自由なく暮らせるんだよ?」


「興味ありませんので」


「はっはっは! 僕は諦めが悪くてね。また来るよ」


 ……参ったな。


 俺は少し怖くなってきていた。アイツの目に少し怒りが見えたからだ。いつか力ずくでくるかもしれないと思うと自分の身を守る力が必要だと感じた。


「アークリー」


(なんじゃ?)


「俺、強くなりたい。力で従わさせられるなんて絶対に嫌だ」


 すると何故か少しの間が空いた。


(……何を言っとる。お主、自分の力が分からぬのか?)


「え? どういう事?」


 アークリーの呆れた声に首を傾げた。


(この際だからちゃんと言っておこう。空が飛べ、自然の力を操り、体の傷は異常な速さで治癒し、体にはなんぴとたりとも通さない壁を作れるなど……お主はそれが当たり前だと思っとるのか?)


「ま、まあ、確かにおかしいとは思ったよ? でも、まだ戦闘とかした事ないしさ」


 いくらそんな力を持っていても俺には扱いきれてないし、普段使わないから自信がないというのが本音だ。


(それを知りたいなら後でこの近くにある山に行くがいい。そこでお主は自分の強さが分かるだろう)


「そうなの?」


 そうして学校が終わると俺は山に来ていた。


「で? 何をすればいい?」


(ふむ……おお! ちょうどいい! あそこで我が物顔で歩いとる魔物がおるじゃろ)


 視線をぐるっと移動させると地面が揺れるくらいにドスンドスンと音をたてている巨大なトカゲみたいな奴がいた。


(あやつを倒すのだ)


「何言ってんの? さすがに無理だよ」


 この爺さん俺に死ねと言っているのか?


(しょうがない。では、あやつに触るだけでいいぞい)


「まあ、それなら何とかいけるか……めちゃくちゃ怖いけど体がデカいから俺に触られても気付かないだろ」


 これが何を意味するのか分からないけど修行だと思って言う通りにした。急な難易度の下落に俺はホッとすると奴が止まるまでじっと待ち構えた。


「お! 止まった!」


 奴が地面に座り込んで頭を下げたところをみると休むつもりらしい。ここぞというチャンスにラッキーと思いつつ低姿勢で近づいていった。


 ポン!  


 よし! 楽勝楽勝!


 魔物の尻尾付近に軽くタッチして任務達成! 引き上げようと後ろを振り返った。


「グルル……」


 あれ……なんで顔がこっちに向いてるのかな……


(おお! 忘れとった! こやつは非常〜に獰猛でな? 警戒心が強い上に頭が良い、それに体の割に素早く厄介な奴じゃった!)


 やられた! このじいさんわざと俺に戦わせようと罠を仕掛けやがった!


「鬼! 悪魔! 人殺しー!」


(ほっほっほ! ほーら相手はやる気じゃぞい? 死にたくなければ戦うのじゃ!)


 ヤバい……よだれ垂らして俺を喰おうとしてるよ……


「ガァー!」


「わぁ⁉︎」


 ガァン!


 俺は大口を開けた魔物に喰われそうになった瞬間、無意識に赤く光るバリアを展開すると魔物は壁に激突したように後ろに跳ねていった。


「た、助かった……」


(ほれ、今度はこっちから攻撃じゃ!)


「んなこと言ったって……」


 強力なバリアのおかげで何とかなったはいいけど、攻撃と言われても……


 何が起きたの分からない動揺を見せるトカゲもどきと向き合った。


「……やっぱり怖い」


 まさに恐竜といった風貌に怖気付くのは当たり前の事で、足の震えもまだ止まっていない。


「な、何か魔法を……」


 俺は家でゲームをして遊ぶのが好きで、死ぬ前に妄想していた自然の力を操るという力のイメージはゲームのキャラクターが使う魔法だった。


 思い出せば5歳の時、村人達が使っていた魔法を真似てみたら見事にできてしまい、驚いたのを覚えている。


「炎!」


 俺はそれから山で魔法を使いまくった。最初は村の人が使っている魔法をイメージして放っていたけど段々とコツを掴んでくるとゲームのキャラクターが使っているような魔法ができるようになっていた。


 頭で炎をイメージをしながら右手に意識を集中させれば眩しくなるような炎が右手に発生した。自身が出したものだからか、放つまで熱くないのが不思議だ。


 ドォン!!!


「ギャァー!」


 手から放たれた炎が瞬く間にトカゲもどきに直撃すると奴は悲鳴をあげて仰け反った。ダメージは入ったみたいだけど硬い鱗で火は消えてしまい、プスプスと煙が立ち上がっていた。


(戦闘をする際は相手の弱点を見極めることじゃ。あやつは硬い皮膚で火に耐性を持っておるからいくら強力な炎でも倒す事はできん)


「弱点か……じゃあ逆に氷なら」


 今度は右手に氷ではなく、雪をイメージした。


 ただ氷をぶつけたり、雪で埋めてもあの頑丈な体にはビクともしないだろう。


 だったら……


 思考を巡らせ、俺は空いていた左手に風を発生させた。


「これで凍らせてやる!」


 雪を纏った竜巻が怒りで突っ込んでくるトカゲもどきを包み込んでいった。


(正解じゃ。あやつは冷気に弱くてな、魔法の威力が凄いとあんなふうに動くことができなくなるのじゃ)


 トカゲもどきはかちこちに凍っていて、完全に停止していた。


 そして動けないトカゲもどきに今度は竜巻に固い岩を乗せて放つと勝負は決まったのだった。


(それにしても……同時に魔法を発生させ、それを組み合わせるとは……)


「夢中でやったらできちゃった……」


(わしが思った以上にお主はとんでもない力を持っているようじゃな。それが優しい心の持ち主で良かったと本気で思ったわい)


 アークリーのホッとしたような言葉、俺は自分が持つ力の凄さを知った。


 

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