第21話
俺はクラスメイト達と自己紹介をした。
まず初めに挨拶をしてくれた大人しそうな女の子はメルという名前で、家は飲食店をやっているらしい。結構繁盛しているらしくて今度食べに行く約束をした。
もう1人の気の強そうな女の子はカーラという名前で、小さい頃から薬草に興味があったらしく、薬を調合するのが好きすぎて将来は城の専属薬師になって色んな薬を作りたいと息巻いていた。その後、家は薬師一家だと聞いて大いに納得した。
男はカイルという名前で、親はさっき聞いた通り商人をやっていて、主に薬草と回復薬を売っていると聞いた。数年前に何処かの商人が質の良い回復薬を売りはじめたせいでうちで扱っている回復薬が全然売れないと嘆いていた。それが自分のせいだと気付くと、申し訳ないと心の中で謝った。
何と3人は幼馴染らしい。
「私はセイナといいます。ここから少し離れた山に囲まれた村から来ました。だから世間知らずな事もあると思うので色々教えて下さい」
「へぇ〜 そんな所に村があったのか! 全然知らなかった!」
「私もよ、よくここまで来れたわね。山の麓って強い魔物が多いから皆んな山には怖くて近付かないのよ」
「私もお母さんに絶対に行っちゃダメって小さい頃から言われてたから街からあんまり離れた事がないんだ」
なるほど、だから村には外から来た人が居なかったんだな……それを考えると村に来てくれたトワマさん達は相当苦労したんだろうな……少し悪いことしちゃったかも。
「せっかく同じクラスになったんだから仲良くしましょ? このクラスは5人しかいないの」
すくな⁉︎
これには驚いた。教室に入った時、結構広いと感じたから何十人もいると思っていた。あらためて周りを見回すと机は10個くらいあるし。
「なんでですか?」
周りを見回した後、カーラに訊くと少し驚かれたが、その理由を教えてくれた。
「皆んな薬師になりたがらないのよ……需要がないって言ったらいいかしら」
「薬師はあんまり稼げないしな。今年も一番人気は戦士科だな」
それを聞いた俺の中でひとつ思い当たる節があった。それは薬師の道具を扱う店がひとつしかなかった事だった。
だからあの店しか無かったのか……俺の事を久々に来た客だとか言ってたし、おかしいと思ったんだ。
「他にも理由はあるぜ。薬草を扱うのって凄く難しいし、何かあった時の責任が重くのしかかるんだよ。それに回復薬なら別に薬師じゃなくても作れるからな」
「昔、薬のトラブルが絶えない時期があってね。それを危惧した貴族や王族は専属の薬師を雇ってるわ」
俺が初めてこの街に来た時、アークリーやカリスさんが薬の信用性が重要と言っていたのがよく分かった。
「じゃあ、なんで皆さんは薬師を目指してるんですか?」
俺は気になっていた疑問をぶつけた。
「俺は家が色んな薬草を売ってるからだよ。将来親父の後を継ぐから薬草の知識がないとどうにもならないだろ?」
なるほどよく分かる。
「私は何の取り柄もないし、やりたい事がないから……それなら皆んなと一緒がいいかなって……」
メルは家業を継がないのかな?
「私はね、城の専属薬師になりたいの。ここで優秀だって認めて貰えれば推薦してくれるから」
カーラはハッキリ自分の将来が言えて羨ましい。
なるほどね。皆んなそれぞれ事情があるんだな。
「貴方は? その美貌があればきっと貴族とか、もしかしたら王族が飛びついてくるわ。彼らは中身より見た目重視だから周りに自慢できるってね」
勘弁してくれ……そんなの嫌すぎるわ!
「いえ、私はのんびりと田舎で育ったので、将来はまた生まれた故郷に帰って静かに暮らしたいんです」
「なんだ、凄く可愛いから噂通り自我が強いかと思ったけど、全然そうじゃないんだな。凄く話しやすいし、いい友達になれそうだ!」
「良かった……私いじめられるかと思ったから怖かったよ」
「噂は信じるものじゃないってことね」
その噂とやらでメルは俺を怖がっていたのか……ていうかその噂の俺はどんだけひどい奴なんだよ……
まあ、誤解が解けたみたいだからよしとしようか。
薬師科のクラスメイトが普通に接してくれる人達で安心した。一番気にしていた問題が解決したことでこれからの学校生活が楽しいものになりそうで嬉しかった。
ガラガラ
誰かが教室に入ってきた。見ると女の子だった。実に可愛らしい顔だけど表情は対照的に暗いというか無表情だ。
「おはよう」
メルが女の子に挨拶をするけど返事はない。そのまま窓際の椅子に座ってしまった。
「あれが5人目か……なんか変なのが来たな」
「気難しそうね。私、あんまり好きじゃないかも」
「ま、まだ初日なんだから! これから仲良くなればいいよ!」
少しキツイ言い方をするふたりを宥めるようにメルが慌てた様子で声をかける。それを見てこの子は優しい性格なんだと思った。
なんだろう……あの子を見ていると胸騒ぎがする。
何でそうなったのかは分からない。でも、窓から外を見る横顔が寂しそうに感じた。
この日、皆と話している時でも、ついあの子の顔に目がいってしまっていた。
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