第20話
学校初日の朝は晴れていて、窓から刺す光に大きく伸びをした。そしてこれから始まる学校生活に心を躍らせながら支度をすると軽やかな足取りで家を出て行った。
「アークリー」
(お主……最近呼ぶ頻度が下がってないかの……わしは寂しいぞ)
「はは……ごめん、ごめん」
アークリーの恨めしそうな声に思わず笑ってしまうと、そういえばそうだったと気付いて謝った。
(で、何の用じゃ?)
俺は学校に向かいながらアークリーから学校について話を聞いていた。
どうやら校舎がふたつあるらしく、ひとつは俺のような一般人が入る校舎で、もうひとつは貴族や王族が入る校舎だそうだ。このふたつはかなりの差があると聞いた。
(当然貴族が入る校舎は何から何まで豪華にできとるし、教員も優れた者を配置しておる。送迎もしておるし、まさに至り尽せりじゃな)
「でも、校舎が別れてて良かったよ」
俺は自分が思っているよりずっと容姿が良い事をこの街に来てから周りの反応でよく分かっていた。確かに村でも近所のおじさんとかおばさんにいつも可愛いねとか綺麗だねと言われていたけど、まだ幼かったからその補正も入っていたのだと思っていた。
でも、年齢も中学生くらいになって、体つきが女らしくなってきた事に加えてエリアさんが楽しそうに色々とおしゃれをしてくれるから更に美しさが増していった。
最近鏡に映る自分を見ているといつの間にか時間が経ってしまう事もあるくらいその美しい姿に見とれてしまう。銀髪のサラサラした細くて綺麗な髪、長いまつ毛と大きな目、顔にはひとつのホクロやシミの無い完璧な顔だった。きっと美男美女な両親のいいとこ取りで生まれたんだろう。
そういえば今日朝食を食べていた時こんな事を言われていた。
「セイナ君はこの街でかなり有名になっているから気をつけてね。街には色々な人がいるから」
「この前近所の奥さん達と話してたらセイナちゃんの話題になってね。今街でセイナちゃんのことを銀髪の美聖女って言ってるらしいわ」
村の人達が銀髪寄りの黒い髪が多くて気になっていなかったけど、この街の人の髪の色は茶色い人が殆どで、嫌でも俺の銀髪は目立っていた。
「学校が近いから同じ制服の人が増えてきたね」
(まあ、細かいことは気にせんで楽しめばよい)
「そうだね」
また学校に通える嬉しさで心が躍ると足取りも軽やかになる。
学校に着くと俺に気付いた生徒達がヒソヒソと話をしながら俺に視線を向ける。そんな光景は気にしないようにして自分の教室に向かう事にした。
学校に入るにあたって当然試験がある。自分が将来何の職業に就きたいのかによって試験の内容も全然違うから入るクラスもそれによって分けられているらしい。
カリスさんからその話を聞いた時、俺は初めて自分の将来を真剣に考えた。
心の中で自分に問う。
商人になってお金持ちになる?
いや、ないな……今だって沢山のお金を持っているのに何に使ったらいいか分かんないくらいだから。
戦士団に入って魔物から人を守る?
う〜ん、これもないかな。聞いた話だと毎日訓練したり魔物のいる場所をパトロールしなきゃいけないらしいから忙しそうだ。俺はもっとのんびり暮らしたい。
料理人になって美味しいご飯で皆を幸せにする?
まあ、悪くはないけど……ピンとこないかな。
薬師になって病気から人を救う?
今のところこれが一番しっくりくるかな……特にお金がなくて苦しんでいる人を助けられたらやりがいがあるかもしれない。
俺はこれだ! ってものは今の所見つからないけど、一番悪くないと思った薬師科での試験を受ける事にしたのだ。
結果は当然合格だった。なんせ俺にはアークリーがついてるからな。
ちゃんと勉強はしたよ? アークリーに教わって色々と薬草の知識とか沢山の薬を作れるようになったから試験も簡単に思えたほどだ。
ゾロゾロと校門に向かう生徒達に混ざって歩いていると周りの視線を一身に受けていたのは分かっていた。
「綺麗……」
「あの子誰だろう?」
「珍しい髪の色だな」
「どこのクラスなんだろう?」
「お、同じ人だよね? 世の中にはあんなに綺麗な顔の人がいるんだなぁ〜」
俺の耳にはそんな声が次々と入ってくる。
うん、その気持ちは十分過ぎるほど分かるさ……俺だって同じだよ、可愛すぎて、綺麗すぎて怖いくらいだ。
もう同じ光景を街で何度も味わっていたから随分と耐性はできている。最初は恥ずかしいとか照れたりしていたけど、段々とそれが普通の反応なんだと自分に言い聞かせて気持ちを崩す事なくいられるようになっていた。
さてと、俺の教室は2階か。
周りの様子など構わず、貼り出された紙を見て自分のクラスである薬師科の場所を確認すると颯爽とその場を後にした。
いや〜 いきなり目立っちゃったな! ほんとこの顔の破壊力はヤバい。
校舎の中を歩きながら周りをキョロキョロと見た感想はいたって普通の建物って感じだった。そう思えたのは前の世界で通っていた学校と比べてもそれほど違和感を感じなかったからだ。
薬師科の教室に入っていくと中には男ひとりに女の子2人が楽しそうに話していた。
「あ、お、おはよう……」
そのうちのひとりの女の子が俺に気付いて挨拶をしてくれた。でも、その顔が恐怖で引き攣っているような気がするのは気のせいか?
「おはようございます」
俺が挨拶を返すと他のふたりも俺に気付いた。
「おはよ! 今日から宜しくな!」
男の方はやんちゃな雰囲気がしてフランクな感じだ。
「まさか、あの噂の子と一緒のクラスなんてね」
もう1人の女の子はなかなか気が強そうな顔をしていた。俺の事を知っているような口振りが気になる。
「やっぱりそうだよね……」
最初に挨拶をしてくれた大人しそうな女の子の反応は何なんだろう? 俺が何かしたのか? と言いたくなる反応だった。
「銀髪の美聖女……その美しさに並ぶ人はこの街……いえ、世界にもいないって噂よ」
「噂なんかじゃなかったな。まさかこんなに綺麗な奴がいるんだな」
「今日から宜しくお願いしますね」
俺はこれからの学校生活に胸を踊らせ、皆の元に歩いていった。
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