第17話

「おい! あれ見ろよ!」


「うお⁉︎ か、可愛い……」


 前にいる鎧を着たふたりの男が驚いた顔のまま俺に釘付けになっている。


「あの子何処から来たのかしら?」

 

「ふふっ! 恥ずかしそうにしてる姿が初々しくていいわね〜」


 横を見ると若いお姉さん達が微笑みながら俺を見ていた。


 もう見慣れていた街中を歩く俺は、周りからの視線を一身に浴びていたのが不思議で、最初はなんでだろうと思っていたのだが。


 あ、そっか……そういえば今までずっとフードを被って姿を隠していたんだった……


 正式にこの街の住人となり、堂々と街を歩いて行きたい所に行ける嬉しさから、いつも着ていたマントが無いのをすっかり忘れていた。


 にしても……


 視線を動かすと皆んな俺を見ている……うっとりした顔や驚いた顔、羨ましそうな顔など反応は様々だ。


 予想外の事に俺は恥ずかしさで平常心ではいられず、周りの視線が気になってしょうがなかった。


 確かに俺は自分の容姿が良いとは思ってはいたけど、まさかここまで注目を浴びるとは思わなかったのだ。


 それでも何とか行きたいと思っていたお店に辿り着いた俺はさっきの事は忘れて買い物を楽しむ事にした。


 来ていたのは薬師が扱う道具が売っているお店だ。今まではカリスさんに頼んで買ってきてもらっていたけど何があるのか見ないと良くわからなかったのだ。小さい子供が来るような所じゃないからと言われて今まで我慢していたけどやっと来る事ができて嬉しい。


 おまけに俺の他に客が誰もいないのを見て更に気分が上がった。


 やった! これでゆっくり見られる!


 少し小さめのお店だったけどカリスさんが言うにはここが薬師の道具を扱う唯一のお店らしい。


 こんなに大きな街なのに何でここしかないのだろうか? そんな疑問を抱きながら商品棚に向かった。


「いらっしゃいませ〜」


 お姉さんが俺を迎えてくれるとどこかに行ってしまった。それを見た俺は心の中で良かったと呟いた。これで心置きなくアークリーを呼び出せるからだ。


「アークリー」


(お呼びかな?)


「薬師の道具を売ってるお店に来たんだけどどれを買ったらいいのか分からなくてさ」


 目の前には所狭しと道具が置いてあるけど、どれも見ただけじゃ使い方が分からない物が多く、困った時のアークリーに頼る事にした。


(ほう、なかなか品揃えはいいようじゃのう)


 アークリーの意外だと言う反応にへぇ〜 と思いながらある物を手に取った。


「これって何?」


(それは薬草を粉々にする道具じゃな)


「おお! 便利じゃん! これで手間が減るよ!」


 器に入れてゴリゴリと薬草を潰していた俺はこれで一気にテンションが上がると次の道具に手を伸ばした。


「これは?」


(それは川の水を綺麗に浄化する道具じゃな)


 それを聞いてすぐに買う事が決定した。


 それからも薬草の収納に便利な鞄や容器などどんどんカウンターに積んでいた。そのうちさっきの店員さんが帰ってくると変な声を上げて驚いていた。


「こ、こんなに買うんですか⁉︎」


 俺が頷くと嬉しそうにお会計を始めた。そしてお金を払っている時にここに来たお客さんは久しぶりだと言われ、それが本当なら薬師ってこの街に何人いるんだろうという疑問が浮かんだ。今までそんな事は気にしてなかったし、回復薬が沢山流通しているなら薬師も沢山いていいはずだからその疑問は更に深まるばかりだ。


 店を出ると夢中で買い物を楽しんだ高揚感のまま家に向かって歩き出した。


 今度はアルをお供にして来ようかな……なんかひとりだと安心できないし、いくら幼い子供だとしてもいないよりは全然いいかもしれないな


 そんな事を思いながらも大きな屋敷に帰ると奥の方からバタバタと走る音が迫ってきた。


「お姉ちゃん!」


 小さな体が俺に向かって飛び込んでくる。


「アル! ただいま」


 それを受け止めると力一杯ギュッと抱きつかれた。


「何処に行ってたの〜! 僕も行きたかった!」


 アルの強い抗議に俺は苦笑して答えた。


「アルが寝てたからだよ。今度は一緒に行こうね」


 優しく話しかけると「んー!」と、まだ御機嫌斜めのようだ。今度は頭を撫でてやると段々大人しくなった。


「絶対だよ! あっちで遊ぼ!」


 機嫌が直ったのか満面の笑みを浮かべていた。


 まるで小さい頃のレンを見ているようだ。その可愛らしい笑顔に断ることなどできるはずもなく、小さな手に引かれていく。


 アルは毎日屋敷を走り回って元気に遊び、使用人の人達に可愛がられている。その中でも俺に一番懐いていて俺が屋敷にいる時はいつも隣にいるほどだ。


 カリスさんとエリアさんはそれが嬉しいのか将来結婚したらいいのにと言われてかなり焦った事もあった。本人もその気になっていて、幼いながらも結婚する! と息巻いていた。


 すまない……アルは将来いい男になりそうだけど俺には越えられない壁があるんだ……


 当然それは無理な話で……俺はその話になると笑ってはぐらかす事しかできなかった。


 

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