第15話
学校に通う日まであと30日と知ってから俺は準備を始めた。本当なら今まで通り飛んでいけばいつでも帰えられるけどもしも山で俺の姿を見られたら変に思われるかもしれない。だから学校生活の間はあまり家に帰らないつもりだ。
その間薬草が必要になるかもしれないから出来るだけ山の薬草を取っておきたいのと何かあった時の為に神薬も作っておきたい。それに回復薬も沢山作っておかないといけないと、やる事が多すぎてかなり忙しい日々を過ごしていた。
「アークリー。こんな感じでどうかな?」
俺は薬草から手際良く薬を作るとアークリーに見てもらった。
(見事じゃ。まさかこの5年間でここまで成長するとはな……大したもんじゃ!)
「アークリーのおかげだよ。教え方が凄く上手いから不思議と楽しくなっちゃってさ」
ほんとに薬師になろうかと考える事もあるくらいハマっていた。
(お主はもう十分に立派な薬師じゃ。その腕があれば王宮にも勤める事ができるだろう)
「そんなに⁉︎」
(これでは学校の授業がつまらなくなってしまうな)
「まあ、新しい生活が楽しみだから別にいいよ。さて、この山で取れる薬草のおさらいでもしようか」
俺の前に広がる日干しにされている大量の薬草達は街に持っていく用で山で一生懸命に採取した物だ。
「まずは回復薬とか色々な薬の材料になるホウリィ草。これが一番使うから多く持っていこう」
綺麗で真っ白な花が咲く薬草で、この山で採れるホウリィ草はポートラの街で栽培されている物より大きくて花の色も少し違う。あちらの花は少し白がくすんでいてアークリーの話では白に近いほど品質が良いらしい。
「これはノスラト草でホウリィ草と合わせて回復薬ができる物だ。それ以外だと魔物から受ける毒を治す薬などに使う」
これも無いと困る薬草だな。カリスさんからは回復薬以外では使わないと聞いて驚いたものだ。
「これはマラスカ草。猛毒を持つ薬草で、綺麗な赤い花と甘い匂いを出すからそれに釣られて食べると毒で死んでしまう恐ろしい薬草だ。でも、毒以外には凄く重要な成分が入ってるからこれも無いとできない薬が多い」
実はアークリーに会う前これを食べた事があった。美味しいと思った瞬間に体が痺れてしばらく動けなくなった時はダメかと思ったけど何故か元に戻っていて、後からアークリーにその薬草の話を聞いた時はゾッとした覚えがある。でもしょうがなかったんだ。あの時は貧しくてお腹が空き過ぎていたんだもん。
「で、これが薬草の毒を中和してくれるサーラス草だな。この薬草があって本当に良かったな」
まさに毒を中和するだけに生まれたようなもので他に使い道はないといえ重宝するのは確かだ。
「ポーリィズ草……ホウリィ草とマラスカ草と一緒に混ぜる事で生命力を高める薬ができる。以前俺が畑に撒いたのはこれだ。土にいる微生物が元気になって良い土ができるんだ」
もちろんサーラス草を混ぜれば人でも効果を発揮できる。俺も試しに飲んで見たら力がみなぎってきて、魔法の威力が桁違いに上がっていた。
「最後はモリナ草だな。これは主に人の体に異常があった時に使う薬草だ」
アークリーの話だと体が石化してしまう硬化病とか体が腐ってしまう菌が繁殖した暴食病に効くらしい。
(よく勉強したな。わしは嬉しいぞ)
「えへへ……」
何だか前の世界のおじいちゃんに褒められているようで嬉しい。
「よし、乾燥したら準備完了かな。あとは……」
それから出発まであと3日となった日に山の洞窟を改造した自分の基地にレンを連れてきていた。
「用ってなんだい姉ちゃん……」
レンは俺が街に行くと決まってから明らかに元気を無くしていて、出発が近づくにつれてそれは大きくなっていた。
「レンにお願いがあるの」
これをレンにお願いする事で少しでも元気になってくれればと考えていた。
「え?」
「私の作ったこの場所を守って欲しいの。ここは思い出の場所だから帰ってきた時に荒れていたら悲しいでしょ?」
ふたりで過ごした場所だから思い出も沢山ある。この使命を胸に頑張ってくれたらと思ったのだ。
「うん! 俺やるよ! ここで訓練する! 強くなるよ!」
レンがやる気になってくれたのを見て俺は少しホッとした。
「ありがとうレン。じゃあそのお礼をしなきゃね」
俺は基地の奥に行ってあるのものを手にするとまたレンの元に戻った。
「これは……」
「これはレンの剣よ。私を守ってくれるんでしょ? だからトワマさんに頼んで買ってきてもらったの」
この剣はポートラの街で手に入れた物だ。年に一度行われるオークションのようなものがあって、一度連れて行ってもらった事があった。そこでこの剣が出た時に落札したのだ。かなりの名剣らしくその金額にカリスさんが驚いていたくらいだから相当のものだろう。
「ありがとう姉ちゃん……」
レンは余程嬉しかったのか涙を流していた。
「もう、永遠の別れになるわけじゃないんだから泣かないの……」
俺はレンの姿に苦笑して抱きしめるとレンの体が震えていたのが分かった。
「俺、もう泣かないよ。2年したら俺もポートラに行くから……凄く強くなってビックリさせてやる!」
俺はレンから離れると笑顔で頷いた。
「うん、待ってるからね」
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