第14話

「トワマさん達が来てからもう5年かぁ」


 春の到来を感じさせる生暖かい風を受けながら俺は村の中を歩いていた。


 あれから村はトワマさん達によってまるでポートラの街を思い起こすような景色へと変わっていた。


 同じ形をした木の家が並んでいた殺風景な景色は今やカラフルでひとつひとつが違う形をした家が並ぶ美しい景色へと変貌していたのだ。思えばこの数年間毎日変わっていく村の中を歩くのが楽しかった。


 ただ見た目が変わっただけじゃない、同時に快適さも以前とは比べ物にならなかった。


 毎朝近くの川に水を汲みに行っていた日課も今は家の蛇口をひねれば水が出てくるようになったし、なんといってもお風呂が付いているのが嬉しかった。


 トワマさんの奥さんであるサラナさんは裁縫に長けた人で、服を作るのが得意とあって丈夫で見た目も良い服を作ってくれた。俺が材料を街から買ってきてはサラナさんに渡しており、今や村人全員に服が行き届いていて皆んな何着も服が着れるようになっておしゃれに目覚める人もちらほら出てきていた。他にも服だけじゃなくフカフカの布団やカーペットなど寒い時期には大変助かっていた。


 そして村にある変化が起きた。


 ふたりの影響で村人の中で建築や裁縫に興味を示す人が出てきたのだ。今では多くの人がふたりの手伝いをしながら楽しそうに学んでいて村全体に活気が出ているのが分かる。


 ほんとに豊かになったな……


 村の中を歩いていると村の人の顔が以前とはまるで違った。暮らしが豊かになって笑顔が多いからそう思えるんだろう。


 そういや俺ももうすぐ14歳か……


 何かあっという間な気がした。毎日村や家の為に動き回ってたから忙しくも豊かになっていくのが嬉しくて今思い出しても楽しい日々だった。


 最近暮らしの充実によりやる事がなくなってきたおれは自分の事に集中できるようになってきた中である事に今更ながら気付いたのだ。


「それにしても何で俺が前の世界で妄想してた事が全部できるんだろう……」


 前からおかしいなとは思っていたけど数日前に何げなく魔物に出会ったらどうしようと考えていた時にバリアなんて貼れないかな〜と冗談まじりにアークリーに訊いたらそんな魔法があると言われてやってみたら体を守るような壁が突如現れて唖然とした。


 そこで俺は何かがおかしいと違和感を覚えて記憶を辿っていった。


「あれ……そういや空を飛べたり自然の力を操れたらいいなって妄想してたよな……?」


 そう、俺が前の世界で体の自由を奪われ、死ぬまでの一カ月間妄想していた事が現実となっていたのだ。


 俺が最終的に妄想していた来世の人物はとんでもない能力を持っていた。


 空を飛べる。

 自然の力を操れる。

 見たものを解析できる。

 超自然治癒能力。

 バリアを貼れる。


 確かこんな感じで妄想していたと思う……あまりのチートっぷりに「こんな奴いたらやばいって!」と鼻で笑っていたものだ。


「やっぱり傷の治りが異常だったのも妄想してたからだっんだ……」


 ますます俺がこの世界に来てしまった意味が知りたくなる……こんな力を持ってまで……


 以前も気になっていた事だけど結局のところ答えは分からない……この疑問が解消される日が来るのだろうか?


「まあ、この村でのんびり暮らして行くんだから別にいっか」


 別にこの力で何かをやれと言われたわけでもないし、俺がこの村で暮らしていくのは変わらない。どんなに強い力を持っていたとしても日常には支障はないのだから。


 でも……


 俺はこの村で生涯を終えてもいいと思っていた。優しい家族と暮らし、村の人達とも良い関係を築けている。トワマさん達のおかげで生活が更に快適なり不満のない暮らしは誰が見ても幸せだと言うだろう。だけど目標にしていた村の発展を成し遂げた今、どこか物足りなくなっている自分がいたのは否定できない。


「このまま、人生をここで終えていいのかな……」


 そう思ったのは未来の自分を想像した時だ。恐らくこのままだと俺は独りになってしまう気がした。見た目は女でも中身は男……男と結婚なんかしたくない……でも、子供は欲しい。そう考えるだけで落ち込んでしまう。


 そんな迷いを抱きながら過ごしていたある日の事だった。


 俺は夕食を終えると父さんと母さんに呼ばれた。


「話ってなに?」


 ふたりと向かい合う形で座った俺は黙るふたりに話しかけた。


「セイナも14歳だ。これから将来を考えないといけない……だから、学校に行ってみないか? そこでなりたいものを見つけたらいいんじゃないかなと思ってね……」


「え?」


 いきなりの打診に俺は言葉が出なかった。


「もちろんセイナと離れるのは辛いわ……私達の大事な娘だから凄く心配よ。でもね、セイナを見ているとこの村の外を見てみたいんじゃないかって感じたの」


「私はこの村が大好きよ!」


「分かってるさ。セイナがこの村のために色々と頑張ってくれたのを知ってるんだよ」


「え……」


「セイナが山の薬草から土の肥料を作って畑に撒いてくれたんだろ? それにカーストの事もそうさ。どうやってそれができたのか分からないけどセイナには特別なものがあるんだろうね」


 まさか俺が裏でやっていた事を知ってたのは意外だった。


「私……お父さんもお母さんもレンもこの村の人もみんな大好きだから……何かしたかったの……みんなで幸せに暮らしたかったの」


「ふふ、本当に良い子ね。あなたは私達の自慢の娘だわ。今私達はとても幸せよ」


 その言葉を聞いた時今までやってきた事が報われた気がした。


「どうだい? 学校に行きたいかい?」


 お父さんの問いかけに俺は迷いなく頷いた。


「うん! でも、いつかこの村に帰ってくるから! いっぱい勉強してこの村をもっと豊かにする為に! でも、どうやって学校に?」


「それなら大丈夫だよ。実はトワマさんに相談したらポートラまで連れて行ってくれると言ってくれたんだ。それに街に裕福な知り合いがいるから世話は任せてくれって言ってくれてね。お礼をしたいと言ったんだがセイナには大きな借りがあるからって断られちゃったよ。何かあったのかい?」


「ううん! 全然大した事ないよ!」


「だから安心して行ってきなさい」


「ありがとうお父さん」

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