第13話

 無事にカラムの木を持って帰った俺は早速山に木を植えた。


「この木にあの綺麗な赤い実がなるのか」


 栽培がかなり難しいらしいけど頑張ろう。


(カラムの木が育ち、実を付けるのは1年に一回と言われておる)


「楽しみだね」



 準備も整ったところで俺はカリスさんにドーラ族の知り合いがいないかを訊く為、街に来ていた。


「なるほどね。ドーラ族の人達はこの街にも沢山いるんだ。大きな街だとカラムの実が流れてくる事があるからそれを狙ってるんだよ。だからその為に彼らは必死に働いてお金を貯めているんだ」


 カリスさんは俺の話を聞いた後にそう説明してくれた。


「誰かいませんか? 腕がよくて信頼できる人だと助かるんですけど」

 

「分かったよ。少し時間をくれないかい? 今は色々とツテがあるからね。いい人材を探してみるよ」


「お願いします」


 それから数日が経った時、カリスさんにドーラ族を紹介されたのだった。


 俺は初めてみるドーラ族の姿に驚いた。


 見た目は人に似ているけど目は赤いし皮膚も緑色に近かったからだ。


「俺に用があるってのはお嬢ちゃんのことかい?」


 カリスさんの店にある小部屋で俺と向き合って座っているドーラ族の男は睨むように俺を見ていた。


「そうです。実はお願いがあって」


「フン……」


 明らかに機嫌が悪そうだった。まさか子供が依頼主だったとは思っていなかったに違いない。


「俺はこの街に流れてきたばかりで忙しいんだ。手短に頼むよお嬢ちゃん。変な依頼だったらすぐに帰らせてもらうからな」


 またひと睨みされると不貞腐れたように横を向いてしまった。


「私の住んでいる村は貧しくて自分達で自給自足をして暮らしてます。だから服とか家は村の人が作った悪く言えば素人が作ったもの。だからこの街の家や人が着ている服を作って欲しいんです」


「見返りは?」


「え?」


「お嬢ちゃんも知っていると思うが俺達ドーラ族が作る家や服はその辺の奴が作る物とは天と地の差があるんだよ。安くて壊れやすい物でいいならそこら辺の店で頼めばいい。俺に頼めば高く付くぜ?」


 少し怒気を含ませた言い方で捲し立てられた俺はあれを男の前に置いた。


 木箱に入った美味しそうな赤い実を見た瞬間男はよほど驚いたのか大きく目を見開いて口をパクパクさせている。


「こ、こ、これは⁉︎ カ、カラムの実じゃねえか‼︎」


 男の声が部屋中にビリビリと響き渡った。


「しかもこんなにデカくて立派なやつなんて初めてだ……」


 無意識なのか、男の震える手はカラムの実の方へ吸い寄せられるように伸びていた。


「どうしますか? 引き受けてくれればこれはあげます」


「ほ、ほんとうか⁉︎」


 あれだけ大きな態度だった男は一転してビシッと椅子に座り直した。


「それに、もし私の村に移住してくれたらもう一個あげます。ずっと住んでくれるなら毎年何個か渡しましょう」


 俺の言葉を男は信じられない様子で聞いている。


「まさか……そんな夢みたいな話があるのか……俺達はカラムの実を求めて何年も彷徨っているんだぞ……生涯に数個しか食べれない奴だって沢山いるんだ……」


「引き受けてくれますか?」


「やる……いや、やらせてくれ! 今日からあんたは俺の主だ! どこにでも付いていくぜ!」


 こうして見事にドーラ族の人を引き入れた俺は自分の住んでいる場所を説明した。


「ほう、なるほどな。そんな辺境の地だったら確かに誰も来ないわな……分かった。何が何でも行ってやるから待っていてくれ」


「私はセイナです。宜しくお願いしますね」


「俺はトワマだ。じゃあ早速準備をしてくる!」


 あの怖かった顔が今は緩みまくっていて、軽い足取りで部屋を出ていくトワマさんを見送ると俺は一足先に家へと帰っていった。


 あれから数日が過ぎた。


 いつものように朝を迎え、家事の手伝いをしていた時だった。後ろからガチャガチャと音が鳴っていたと思ったらピタッと止んだ。


「ふぅ〜 やっと見つけたぜ! 主人様よう!」


 そこにはトワマさんが豪快な笑い声を上げながら立っていて後ろには女の人と子供が立っていた。


「よく来てくれました。感謝します」


「なあに! そうだ! 紹介するぜ! 俺の女房とガキだ!」


「初めまして。トワマの妻、サラナです。この子は息子のトルイです」


「よろしくおねがいします主人様!」


「これから宜しくお願いします。実は私があの街に行っている事は秘密なのでここは初対面という事にして貰えますか?」


「分かった。主人様の頼みならそうしよう」


「じゃあまずは村長さんの家に行きましょう。この村に住んでいいか許可を貰った方がいいと思うので」


「すまないが案内してもらえますかな?」


 俺は頷くと3人を連れて歩き出した。さすがに村人はドーラ族を見たのが初めてなのかザワつき始めていた。そんな中で村長の家に着いた俺達は中で村長に会うと住んでもいいと許可を得たのだった。


「これで皆さんはこの村の一員ですね」


「この村を歩いて見たが主人様の言った通りだな。でも、数年で見違えるほどいい景色にしてやるからな!」


 トワマさんはやる気満々なようで力強く宣言してくれた。


 俺はこれからここがどう変わるのか楽しみだった。


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