第11話

「セイナちゃん……本当にありがとう……あなたは私の命の恩人だわ」


「ああ、エリアだけじゃない。僕だってそうだよ。何てお礼をしたらいいのか……」


「いいんです。私はエリアさんに元気になって欲しかったから……」


「君は神様の使いなんじゃないかってエリアと話してたんだ。これだけの幸せを僕達にくれたんだ。そうとしか思えなくなってきたよ」


「違いますよ。カリスさんが私を助けてくれたから……それがこういう形になったんだと思います」


「あなた、私も明日から一緒に働くわ。セイナちゃんの薬を沢山売って恩返しをしたいの」


「分かったよ。一緒に頑張ろう」


「はい」


 エリアさんも元気になってホッとすると急に眠気が襲ってくる。


「じゃあ私は帰りますね」


「こんな時間に大丈夫かい? 送っていくよ」


「私は平気ですから。エリアさんの隣に居てあげてください」


 俺はふたりに見送られると家へと帰っていった。



 午前中は母さんの手伝いをして家族でお昼を食べると父さんはまた畑に向かい、母さんはお昼ごはんの片付けが終わると父さんの手伝いに弟と向かうのがいつもの流れだった。


 でも、今日は弟を俺が連れて山に入っていった。


「お姉ちゃんと一緒で嬉しいな!」


 レンは俺と手を繋ぎながら歩いていると嬉しそうにそう話す。顔を見ると満面の笑みで俺を見ていた。


「今日は美味しい物を食べさせてあげるからね」


「ほんと! やった〜」


 洞窟まで来ると俺の基地をレンに案内した。


「うわぁー! 凄い! お家みたい!」


「今美味しいカーストを作ってあげるから待っててね」


「カーストぉ?」


 首を捻るレン。


「レンは食べた事ないよね。美味しいんだから」


「隣で見てていい?」


「うん」


 俺は努力の甲斐あって美味しいパンを作る事ができるようになっていた。初めてそれを他の人に食べてもらう事に少しワクワクしながら料理を始めると隣でレンが目を輝かせながら俺の作業を見ていた。


「はい、できたよ」


「うわぁ〜 美味しそう!」


 釜で焼いた出来立てのパンをテーブルに置くとレンはフーフーとパンを冷ましながら食べ始めた。


「柔らかくて美味しい!」


 レンの反応は上々で俺も食べるとその柔らかい食感に頬がほころび味も美味しかった。


「これを付けたらもっと美味しいよ」


 このパンに付ける物を山で探していた時ミツバチのような生き物が飛んでいるのを見つけ後を追うと巣を見つけた。そして俺の予想通りハチミツのような甘い蜜を手に入れる事ができたのだ。


「あまーい!」


 レンはハチミツをパンに付けると更に顔を綻ばせながら頬張っていた。


「ねえ、レンは将来なりたいものってあるの?」


 パンを堪能した後俺は久しぶりに2人きりになったレンと話をしていた。


「僕、悪い奴らからお姉ちゃんを守る戦士になりたいんだ!」


「そ、そうなんだ。う、嬉しいな」


 レンの言葉に少し動揺してしまった。まさかそんな事を思っていたとは思わなかったから。


「そしたらお姉ちゃんとずっと一緒にいられるね!」


「じゃあ強くならないとね」


「うん! だからずっとお父さんが作ってくれた木の剣を振ってるんだ!」


 レンは本気らしい。そんなにも俺の事を慕ってくれていると思うと正直嬉しい。


「ありがとうレン。お姉ちゃん嬉しいよ」


「僕頑張って強くなるからね!」


 俺は真っ直ぐな弟の頭を撫でるとレンは嬉しそうに笑っていた。




 今日は回復薬を大量にカリスさんに渡さないといけないので大忙しだ。


 あらかじめ作って置いた回復薬を袋に詰めるとポートラの街に向かった。


 カリスさんに出会ってからもう半年が過ぎていた。


 その短期間でカリスさんは自分の店を持つようになっていた。


「こんにちは」


 店の裏口は俺の為に作ってくれたらしい。そこを入ってエリアさんを見つけると挨拶をする。


「こんにちはセイナちゃん。今日も可愛いわね」


「エリアさんだって綺麗です」


 エリアさんは凄く綺麗な人で街では有名だと店員のお姉さんから聞いて納得したのを覚えている。


「嬉しいわ。さ、美味しいお菓子があるから食べていってね」


「ありがとうございます」


 もう何度も足を運んでいるから自分の家のように感じる。店員さんとも挨拶を交わしながら休憩室の椅子に座った。


「ああ、セイナ君。待ってたよ」


 そこへ来たのはカリスさんだった。


「こんにちはカリスさん」


「これは30日分の売り上げになってるから君の分を受け取ってくれ」


 机にドシャっと置かれた大きな袋を覗くと大量の金貨が入っていた。


「こんなに……」


「僕も段々商売が分かってきた気がするよ。君のおかげだ」


 カリスさんの顔は自信に満ち溢れていた。


「街の人が言ってましたよ。カリスさんの商人としての才能が凄いって」


「ははっ、必死に勉強した甲斐があったよ。もし何か欲しい物があったら買ってくるからね」


 俺は頭の中で欲しい物を考えると紙に書いていった。


「じゃあこれが欲しいです」


「分かった。モーラ!」


 カリスさんの呼ぶ声にお姉さんが部屋に入ってくる。


 最近入った新人の人で、元気が取り柄みたいな人だ。


「はい! 何でしょう?」


「これを買ってきてくれないか?」


「分かりました!」


 店員のお姉さんは笑顔で店を出ていった。


「カリスさんも大変になりましたね」


「うん、でも毎日が充実してるよ。セイナ君の回復薬は他の物とは効果が全然違うし、値段も変わらないから今や供給が追いつかなくてね。予約が一年先まで埋まってるよ」


「すいません。私ひとりだと作るのにも限界があって」


「今のペースでいいよ。セイナ君は自分の事を優先してくれ。もっと作れなんて言ったらエリアに怒られる」


 カリスさんは笑いながらそう話した。


「それにセイナ君の回復薬が大量に出回ってしまったら他の回復薬が売れなくて困る人が沢山でるだろうからね」


 その言葉に優しさを感じた俺はカリスさんにお願いして本当に良かったと思った。


「最近凄いやる気だから疲れてませんか?」


 毎日のように仕事に励んでいるらしくエリアさんが心配していたのを思い出した。


「大丈夫だよ。エリアのお腹の子の為にももっと頑張らないとね」


 カリスさんの恥ずかしそうな姿が微笑ましい。


 そう、この前エリアさんが嬉しそうに俺に言ってきたんだ……子供が出来たって。


 やがて買い物から帰ってきたお姉さんから品物を受け取ると重たい袋を背負いながら家に帰っていった。

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