第10話
カリスはエリアがこの先長くはないと分かっていた。医者から治すのは不可能だと匙を投げられ絶望していた幼馴染を放っておくことができなかったのだ。昔から仲が良く一緒にいたエリアを最期の時まで一緒にいたいと彼女にプロポーズをしたが最初は断られた。それは自分が長くはないと知っていたからで彼女はカリスと一緒に生きたい思いを押し殺してカリスのために身を引いたのだった。
しかしカリスは引かなかった。何度も彼女に訴えかけ、やがてその強い思いが遂にエリアを動かし、ふたりは結ばれた。
それから3年が過ぎ、彼女の体は徐々に病に蝕まれていく。それでもふたりは結婚した時に誓った最期まで幸せに生きるという約束を胸に生きてきたのだった。
セイナとの出会いからカリスは大きな転機を迎えた。
彼女が持ってきた回復薬は他の回復薬を寄せ付けないほど質が良く魔物と戦う傭兵の間に瞬く間に広がっていった。
今ではその回復薬を求める声が大きく彼は必死に売り捌き富を得るようになっていた。それは自分の店を持つという夢を叶える事ができるところまで来ていたがカリスは嬉しさよりその時エリアが隣にいてくれるのかが心配で仕方なかったのだ。
まだ少し寒い夜、カリスはベッドに横になるエリアと話をしていた。その話題はもっぱらセイナの事ばかりだった。
「身体は大丈夫かい? アザが少し大きくなってるから心配なんだ」
「……少し体がいう事を聞かなくなってきたわ」
「すまない……僕は君に何もしてあげられない……」
「ふふ、近くにいてくれるだけで私は幸せよ……それにセイナちゃんと会ってから楽しみが増えたわ」
「あの子は本当に不思議な子供だね。まだ8歳なのに大人のような話し方だったり凄く頭が良いんだ」
「それに優しくて良い子だから話してて楽しいの。痛みを忘れるくらいよ」
「あの子のおかげでこうして君に楽をさせてあげられるんだ。本当に感謝しかないよ」
「最期にあの子と会えて良かったわ……」
「ダメだよ、まだ君は生きないと……セイナ君が悲しむ」
「そうね……まだあの子といっぱい話したい事があるから」
「そうだよ! だから頑張ってくれ……僕も君を支えるから」
「ありがとうカリス……」
コンコン
「こんな時間に誰かしら?」
「ちょっと行ってくるよ」
静かな夜の空を飛びポートラの街に着いた俺はカリスさんの家に直行した。
夜だからドアを軽く叩くと中からこちらに歩いてくる足音が聞こえた。
ガチャ
「セ、セイナ君⁉︎ どうしてこんな時間に?」
「すいません、少し話があるんです」
驚いた顔で俺を迎えたカリスさんに俺は謝りつつ中に入れてもらった。
「エリアさんはもう眠ってますか?」
「いや、ベッドに寝ているけどまだ起きているよ」
「すいません案内してくれませんか?」
「エリアに話があるんだね。こっちだよ」
こんな時間にもカリスさんは快く俺を寝室に案内してくれた。
「あら? セイナちゃんこんな時間にどうしたの?」
寝室に入るとエリアさんが笑顔で迎えてくれたけどその顔には痛みなのか少し歪んで見える。
「すいませんこんな時間に。どうしてもエリアさんに渡したい物があって」
エリアさんのベッドまで移動するとカリスさんが近くに椅子を持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございますカリスさん」
俺は椅子に座ると握りしめていた神薬をエリアさんに渡した。
「これは?」
エリアさんは神薬を見てから俺に視線を移した。
「それはエリアさんの薬です」
「それってこの病気の?」
「はい」
「ほ、本当かい! エリアの病気はこの世界で治せる人が居ないって言われてるんだ……」
「私を信じてください」
「うん、セイナちゃんが嘘を言うはずがないわ。飲ませてもらうわね」
エリアさんが神薬を飲むのを俺とカリスさんは無言で見つめていた。
「こ、これは……」
エリアさんの体が淡い光に包まれていくと徐々にそれは消えていった。
しばらくエリアさんは自分の体を眺めたり触ったりしていると突然お腹を確認した。
「ない……アザが……消えてる……」
「何だって‼︎ それじゃあ……」
カリスさんもエリアさんのお腹を覗き込むと驚いた顔でふたりは見つめ合っていた。
「信じられない……治ったのね……」
エリアさんは大粒の涙を流していた。
「夢じゃないんだね……これからもずっとふたりで人生を歩めるんだね……」
ふたりは手を合わせると抱き合う。エリアさんはカリスさんの胸の中で子供のように声を出して泣いていた。
それを見て分かった……俺が前の世界で経験した難病を何年も耐えてきたんだと。それがどれほど辛かったのか……考えるだけでも泣けてくる。
エリアさんは救われ俺は良かったとふたりが泣いて喜んでいるのを微笑んで見ていた。
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