第9話

「そう言う事なんだけど分かる?」


 俺がアークリーに相談をしたのはエリアさんのことだった。あの後色々と症状とか聞いた話をアークリーに聞かせるとすぐに答えが返ってきた。さすが物知りじいさんだ。


(知っとるぞ。それは珍しく厄介な病じゃな。確か1万人にひとりと言われるボウラス菌が繁殖してしまう病気じゃ)


「そんなに厄介なの?」


(そうじゃ、あれを放っておけば恐らく何年後かには菌に体を蝕まれて死んでしまうかもしれんな)


「何だって……」


(恐らくこの世界でそれを治す薬はない。だが、お主にはどんな病も治してしまう薬ができるじゃろ?)


「そうか! 神薬だ!」


(うむ、神秘の泉の水とあそこに生えている花を使えば何とかなるはずじゃ)


「良かった。早く薬を持っていってあげなきゃ!」


(ふ、お主は何故そこまで人を助けたいと思うのじゃ?)


「え? いきなりそんな事を言われても……だって人の喜ぶ顔を見るのって嬉しいじゃん。たぶんそれだけのためだよ」


(ファッファッファ! わしはお主のような者は初めてじゃ! こんなにも純粋でキラキラした心を持った者を見た事がないわ)


「そんな事より早く行こうよ! 今日中に作って明日持っていきたいからさ」


(では神秘の泉まで急ぐのじゃ!)


「うん!」


 この前たまたま見つけた神秘の泉。


 瓶に花を入れてから泉の水を瓶いっぱいに満たすと段々瓶の水がキラキラと光出した。瓶を持ち上げて眺めているとその透き通る水の中を光の粒がキラキラと光って泳いでいるように見える。


 確証はないけどこれでいいはずだ。


「……これでエリアさんが助かる」


(ふふ、お主は薬師に向いとるかもしれんな)


「そうかな……」


 アークリーからそう言われた俺はそれも良いかなと思ってしまった。


「そういえば何で俺の作った回復薬があんなに効果があったのかな?」


 ふとそんな疑問が浮かんだ。


 何故商人のカリスさんが驚くほどの効果が出たんだろう。


(回復薬といっても組み合わせる薬草や水が良くない物だと効果は下がってしまうし薬草の配合率が適当だとこれも効果を下げる要因になる。わしがお主に教えたのは最も効果の出る配合率なのだ。それに加えてこの山で取れる薬草と水は最高品質と言って良いだろう)


「なるほど……だからあんなに凄い回復薬が作れたんだね」


(薬は奥が深い。だから前も言ったように先人が人生を捧げて築いた物なのだ。わしはそれを頭に全て入れただけにすぎん……今思えば賢者など本当は呼ばれる資格はないのかもしれんな)


「そんな事はないよ。アークリーはそれを自分の国の為に勉強したんでしょ? それも昔の言語を解析しながらさ。十分凄いと思うよ」


 この数ヶ月の間にアークリーと色々話していてアークリーがどんな事をしてきたのかがあらかた分かってくると俺はアークリーに尊敬の念を抱いた。


 アークリーは世界をただ旅していたわけじゃなかった。旅をする中で得た知識を世界中に広めていたらしい。そのおかげで貧しかった国は救われだろうし、沢山の人が助かったと思うと凄いとしか言えなかった。


(ふふ、嬉しいぞ!)


「うん! あ、もうこんな時間か。そろそろ帰ろう」


 俺は空がオレンジ色に染まるのを見て山を降りていった。


「あー! 今日も頑張ったなぁ〜」


 心地よい疲れの中暗くなってきた村を歩くと近所のおばさんや仕事から帰ってきたおじさん達と挨拶を交わして家に帰る。


「ただいま〜」


「あ! お姉ちゃん!」


 俺の声を聞いて可愛い弟が走って来るとそのまま抱きついてくる。俺は弟の頭を優しく撫でると弟は満面の笑みを浮かべて今日の出来事を嬉しそうに話してきた。


「おかえりセイナ、毎日こんな時間までどこで遊んでるの?」


 お母さんがいつものように台所から出て来るとそんな事を訊かれた。


「近くの山で薬草の勉強をしてるの!」


「へぇ〜 偉いわね。でも気を付けなさい。毒を持ってる薬草もあるから無闇に食べちゃダメよ?」


「はーい」


「さ、そろそろお父さんが帰って来るから手を洗ってきなさい」


 俺は言われた通りに手を洗うとお父さんが帰って来るまで弟のレンと遊んでいた。


「お姉ちゃん! 僕も山に連れてってよ!」


 レンは俺が山に行くのを何度か見て知っている。多分毎日家にいてつまらなくなってきたのかもしれない。


「お姉ちゃんは山で勉強してるのよ? 来てもつまらないわ」


「いいよ! 僕、お姉ちゃんと一緒にいたいんだ!」


 可愛い笑顔でここまで言われたら流石に断れない。


「じゃあ明日一緒に山に行こうね」


「やった!」


 いい笑顔だ……お父さんに似てるから将来はモテそうだな。


「ふふ、良かったわねレン。大好きなお姉ちゃんと遊べて」


 お母さんの言葉に大きく頷くレンを見て俺は少し不安になる。


 それは嬉しい事だけど最近レンは家にいる間俺にベッタリとくっいて離れないほど懐いている。将来大丈夫かなと少し不安になる時もあるけどまあまだ6歳だからこんなもんかと自分を納得させた。


 それにしてもエリアさんに薬を渡さなきゃいけないのにどうしようかな。申し訳ないけどこの後行っちゃおう。早くエリアさんに元気になってもらいたいからね。


 うちの家族は朝が早いから寝るのも早い。たぶんカリスさん達はまだ起きているはずだ。


 部屋の窓を開けると俺は勢いよく飛び出した。手に神薬を握りしめて。

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