第8話
カリスさんなら回復薬を売ってくれるんじゃないかと淡い期待を抱きながら話をするとカリスさんは他の商人達と違って真剣な顔で俺の話を聞いてくれた。
「なるほどね……今この街の回復薬は全て戦士団が買い上げてしまってね。困っている人が沢山いるから今なら良い値段で売れると思うよ」
俺は自分で作った回復薬を机の上に置いた。
「これなんですけど」
俺が置いた回復薬をカリスさんが手に取って不思議な顔で眺めている。
「これが回復薬? 凄く綺麗な色をしているね……思わず見惚れてしまうよ。こんな回復薬は初めてだ」
しばらく眺めた後机に回復薬を戻すのを見て俺は話を続けた。
「これをどうにか売れないかなって思ったんですけど。どうすればいいのか分からなくて……」
カリスさんは少し考える素振りを見せたあと静かに話し始めた。
「そうだな……回復薬は戦う人にとって凄く重要な物なんだ。簡単に作れる回復薬とはいえ作る人によっては効果が全然違うこともあるからね。安心して使える物じゃなかったら戦いで命を落とすかもしれない……だからその効果を知ってからじゃないと買わないって人も多くいるんだ」
「じゃあそれを使ってもらって気に入ってもらえれば良いってことですか?」
「それが一番だね。でも、それが得体のしれない人だと取り合ってもらえないかもしれないね」
「カリスさん。これを売り込んで貰えないですか? もちろん売れたらお金は払います」
「え? 良いのかい? これは君のお父さんの物なんじゃないのかい?」
「これは私が作ったんです。お父さんの真似をして」
「君が作った⁉︎ その若さで凄いよ!」
「あなた、やってあげたら?」
「うん、そのつもりだよ。この回復薬を見た時に凄い物なんじゃないかって体が震えたんだ。早速明日掛け合ってみよう」
「ありがとうございます! 後4本あるんで置いておきます! じゃあまた今度来ますね!」
「え⁉︎ お父さんは⁉︎」
「大丈夫です!」
俺は嬉しさのあまり我を忘れて勢いよく走っていた。
「これで回復薬が売れるかも!」
それから3日後、早速カリスさんの家を訪ねていた。
この3日間あの回復薬がどうなったのかが気になってしょうがなかったのもあって最初は一週間くらい経ったら行こうと思っていたけどダメだった。
コンコン
「はいはい」
ドアから出てきたカリスさんは俺を見るなり目を輝かせると興奮気味に近づいてきて両腕を強く掴まれた。
「君を待ってたんだ! さ、早く入って!」
急かされるように家に入るとマントを脱いで椅子に座った。
「こんにちは、セイナちゃん」
奥からエリアさんが笑顔で出てくると飲み物を出してくれた。
「ありがとうございます。エリアさん」
「セイナちゃんに会うのが楽しみだったの。ほんとうに可愛いくてずっと見ていたいわ」
「エリアさんも凄く綺麗です」
「うふふ、ありがとう」
そんな会話をしていると慌ただしい足音が響いてくる。
「ああ、待たせたね! 実はあの回復薬の事を報告したいんだ!」
早速本題に入ると俺は少しドキドキしながらじっと報告を待った。自分で作った物がどう評価されるのか気になってしょうがないはやる気持ちを抑えて。
「あの回復薬はとんでもない効果だよ! あの後病院に行ってね。回復薬がなくて困っている人にこれを使ってもらったら凄く驚いてたよ! おかげでその話が広まってもう問い合わせが凄いんだ!」
「良かった……どんな反応があったのか気になってしょうがなかったんです」
「あれ1本だと十分すぎる効果だから薄めても良いくらいだよ。だから他の4本は薄めて売ったよ。これがその売上だ」
机の上に10枚の金貨が並べられると俺はそのうち4枚を渡した。
「じゃあこれはカリスさんの分で」
「え⁉︎ これじゃ多すぎるよ!」
「カリスさんがいなかったら売れなかったんですから。それにこれからも薬を売って欲しいんです」
それを聞いたカリスさんは目を赤くしていた。
「僕……なんかで良いんですか? 僕より儲からせられる人だっていっぱいいますよ……」
「私はカリスさん以外には頼みません。お願いします」
「……ありがとう……セイナ君……頑張って売るよ!」
「ありがとうセイナちゃん……」
カリスさんの隣に座っていたエリアさんにも感謝された。
「じゃあ、また回復薬を持ってきます」
「宜しくね。多分持ってきただけ売れると思うから」
「はい。あとお願いがあるんですけど回復薬を入れる容器が沢山欲しいんです。このお金で買ってきてもらえませんか? 私がそんな事をしたら目立ってしまうと思うので」
「早速行ってくるよ。その間ここで待っていてくれ。エリアが君と話したがっていたからね」
カリスさんが家を出ていくとエリアさんと沢山話をした。エリアさんの子供の頃の話とか今街で流行っている物の話とか楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「カリスさんとエリアさんて結婚して何年なんですか?」
「もう3年が経ったかしら……時間が経つのは早いわね」
「凄く仲が良さそうだから羨ましいです」
「うふふ、彼は優しいから色々と気を遣ってくれるの……」
エリアさんは何故か悲しげな表情を見せていてその理由が知りたくなった。
「どういう事ですか?」
「私ね……子供が産めない体なの……」
「え……」
「病院の先生が言うには私の体には特殊な菌がいるらしくてね……それで妊娠したとしても赤ちゃんはその菌に……」
エリアさんは今にも泣きそうな顔で息を詰まらせていた。
「だけどセイナちゃんと会ってから凄く楽しいわ。娘ができたみたいで嬉しいの」
エリアさんが笑顔を見せつつ涙を拭う姿を見ながら俺は絶対に治して見せると心の中で誓った。
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