第7話
深く被ったフード付きのマントに身を包んだ小柄な俺は大人の視線に入らないのか特に声をかけられることもなく拠り所という看板がでかでかと貼られた大きな建物に入っていった。
「拠り所に来たけどどうしたらいいの?」
(そうじゃな……まず仕事の依頼が見れる場所があるからそこに行ってみてはどうかの。大きな掲示板が奥にあるはずじゃ)
「分かった」
確かに奥の方に大きな掲示板があってその前には人が集まっている。
大人達が掲示板を見ながら会話をしている中、俺は掲示板に貼ってある紙を読んでいた。
「至急硬化病の治療薬求むか。これは近くの農場に出た魔物の討伐依頼ね。あ、回復薬の依頼もある」
(ほう、流通の多い回復薬が掲示板に貼ってあるとは珍しいのう)
そんな時、後ろで会話をしている大人達の会話が耳に入ってきた。
「魔物の討伐かぁ。行きたいけど回復薬が間に合ってねえんだよなぁ」
「戦士団の奴らが買い占めてるからな。今度大規模な戦いがあるらしい」
「じゃあ当分は手に入りそうにないな。せっかくいい依頼だったのによ」
「仕方ないな。とりあえず回復薬が出回るまで俺達は別の依頼で食い繋ぐしかない」
「チッ!」
俺は体が震えているのに気付いた。それほど今の会話の内容が絶好のチャンスだと分かったからだ。すぐにその場から離れると人気のない場所に移動した。
「聞いた?」
(聞いとったぞ。やったな)
「じゃあ商人に売り込もう!」
(しかし相手をちゃんと選ばねばならんぞ? 子供だからと相手にしてくれん可能性があるし、騙そうとする者も少なくないからな)
「うーん、俺にそんなアテもないしなぁ。誰か信用できる人紹介してくれないかなぁ〜 せっかくのチャンスなのに……」
何か振り出しに戻ったような感じがしてさっきまでの高揚感が一気に落ちていく。
「とりあえず市場にいって片っ端から商人の人に声をかけてみよう」
俺は当たって砕けろの精神で市場に向かった。
……結果はアークリーの言っていた事がそのまま起こり、誰も相手にしてくれなかった。
「くっそ〜 俺が子供だからって門前払いしやがって!」
流石に心が折れた俺はひと休みしようと公園でひとりしょんぼりと座り、子供達が遊んでいるのをじっと見ていた。
「はぁ……もう帰らなきゃ」
(いつも事が上手くいくわけではない。また出直してくれば良い。回復薬が不足していると分かっただけでも大収穫じゃ)
「そうだね」
アークリーの言葉に励まされた俺は座っていた石から元気よく飛び降りて歩き出した。
「ねえ、君」
後ろから優しげな声が聞こえて後ろを振り返るとそこには人の良さそうな若い男性が立っていた。
「あの、何か用ですか?」
俺は少し警戒をしながら答えた。顔が見えないとはいえ子供だと分かる背丈だから用心に越したことはない。
「いや、何か困っていそうだったから声をかけたんだ。それに姿を隠しているような服装も気になってね」
どうしようかな……ひとりで来たなんて言ったら怪しまれるかな?
「お父さんとはぐれてしまって……」
とりあえずそれなりの嘘を言ってやり過ごそうと思った。
「そうか、それは心細かっただろうね。良かったら家に来ないかい? 君のお父さんが見つかるまでさ、拠り所には迷子がいると伝えておくから」
「あ、いや……」
俺が断ろうとした時アークリーが話しかけてきた。
(む……あの格好は商人だな。もしかしたら話を聞いてくれるかもしれんぞ?)
それを聞いた俺はこの人に付いていく事にした。
俺が頷くのを見た男性の優しそうな笑顔にこの人は悪い人じゃなさそうだと直感だけどそう感じた。
「ここが僕の家なんだ」
男性に付いて行った場所は古びた家で、男性は「ボロボロの家でごめんね」と笑いながら中に入って行った。
「おかえりなさいあなた!」
「ただいまエリア!」
中で待っていたのは若い女性だった。まだ新婚なのか俺が小さいのもあって女性は俺に気付かずイチャイチャし始めた。
「寂しかったわ!」
「僕もだよ」
「……じー」
俺はただその甘過ぎるイチャイチャを見せつけられながら恥ずかしさに耐えていた。
「あ! しまった!」
俺を連れてきた事を思い出したのか男性が奥さんから離れるとやっと俺を紹介してくれた。
「実はこの子が親とはぐれてしまったみたいでさ。見つかるかるまでここに居てもらおうと思って連れてきたんだ」
奥さんは俺の方まで歩いてくるとしゃがんで俺の頭を撫でた。
「そう、それは辛かったわね……今温かい飲み物を持ってくるからね」
「さ、こっちにおいで」
俺は男性に連れられて部屋に入った。
「さて、それじゃあ自己紹介でもしようか」
俺が椅子に座るなり男性が話し始めた。
「僕はカリス。まだ未熟だけど商人をやっているんだ。よろしくね」
俺は羽織っていたマントを脱いで髪の毛を整えた。
「私はセイナといいます」
「あ……か、かわ……」
するとカリスさんは何故か目を大きくして俺を見ている。何か言おうとしているけど分からなかった。
「まあ! 凄く可愛いお嬢さんね!」
部屋に入ってきた奥さんは俺に飲み物を持ってきてくれると近くでマジマジと顔を見られた。
「ほ、本当だね! あまりに可愛くて驚いちゃったよ!」
「そ、そうですか……」
急にそんな事を言われて恥ずかしくなると何も言えずに俯いてしまった。
「良かったわ。こんなに可愛い女の子がひとりで歩いてたら変な人に攫われちゃうもの」
「そうだね。きっと今頃お父さんも必死になって探しているかもしれないね」
その後しばらくふたりと話をしていた。カリスさんが商人とあって色々と良い話が聞けたのは大きかった。
「あの、実は回復薬を売りにきたんです」
俺はこの人なら信用できるとあの話を持ちかけてみる事にした。
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