第6話

 家の近くの山でとんでもないものを見つけてしまった俺は薬を保存する瓶が大量に必要だった。住んでいる村にそんなものがないのを知っているから街に行くしかない。まずは街でお金を稼ぎ、薬用の瓶を買うという難題に頭を悩ませていた。


「やっぱりお金が必要だよな……何か売れる物を探さなきゃ」


 そんな時、アークリーがある提案をしてくれたのだった。


「回復薬?」


(そうじゃ。この世界には魔物と呼ばれる生き物がおるのじゃ。人や動物を見境なく襲う恐ろしい存在でな、それを討伐するのを生業とした戦士団という組織が世界の街の至る所にあるのじゃ)


 魔物の存在は村のおじさんから聞いていたが幸いな事にこの8年間でまだ見た事はない。おじさんが俺を驚かそうとしているのか、話を聞いているうちにかなり恐ろしいイメージが俺に定着していた。


「そこに回復薬を売るって事?」


(うむ、魔物を狩るのは至難の業でな。大量に回復薬を使うからいくらあってもいいとされておる。更に品質が良いと高値で買ってくれよう)


「決まりだね。回復薬を売ったお金で瓶を買おう」


 そうと決まれば早速山に向い回復薬の作成に取り掛かったのだが、回復薬はよく見る薬草ふたつだけで簡単に出来上がってしまった。それを村で何とか譲ってもらって集めて来た5個の瓶に詰めていると外は日が落ち始めていた。


「今日はここまでだな」


 明日に売りに行くと決めて山を降りていった。


 あれ……


 家の前で元気になったカアズが立っているのを見た俺は思わず立ち止まってしまった。


「あ!」


 俺の姿を見たカアズは何やら顔を赤くして顔を背けた。


 立ち止まっても仕方ないと歩いて家に入ろうとするとカアズの小さな声に呼び止められた。


「おい……」


「え?」


 振り返るとまだ10歳とは思えない大きな体が寄って来る。その圧力に反射的に後ずさってしまった。


「た、助けてくれて……あ、ありがとな」


 顔を真っ赤にしているカアズを見ていつもからかってきたお返をする時が来たと俺はニヤッと顔が緩んだ。


「は? そんな事するわけないでしょ? 幻覚でも見てたんじゃないの?」


「だって、あの時変な薬を飲ませただろ!」


「だから知らないって。私の姿を誰も見てないでしょ?」


「そうだけど! はっきり覚えてるんだよ!」  


「そこまでいうならそう言う事にしてあげるわ。命の恩人なんだからこれからは私にちょっかいを出さないでね」


 俺は今までの仕返しができたと勝ち誇った顔で家に入っていった。



 次の日はさっさと家の手伝いを終わらせるとマントを羽織りフードを深くかぶって昨日作った薬を手に戦士団があると言う街に飛んで向かったのだった。


「なんかドキドキするな……初めて村以外の人が集まる場所だから」


(あの村など比べものにならん程人がいるぞい)


「うぅ……気が滅入る。ねえ、どうやって薬を売ればいい?」


(方法はふたつあるな。ひとつは直接戦士団の拠点に行って売るやり方だが、これはおすすめせん)


「なんで? 一番簡単そうだけど」


 薬が効くという保証が無いという理由で安く買い叩かれたりお主のような得体の知れない者ならヘタをすれば捕まるかもしれん。


「うわ、それは嫌だ。じゃあもうひとつの方法は?」


 もうひとつは商人に薬を売りこむやり方じゃ。これも簡単ではなくてな、商人と信頼を築かなければ成り立たないのだ。


「何のツテもなくて薬を売るのは簡単じゃないんだね」


(これは少し荒技だが手っ取り速い方法がある)


「どんな方法なの?」


(直接戦場に行き、怪我をした戦士に使って貰うのじゃ。他にも街の病院に行って怪我人に使ってもよいが)


「それなら効果も分かって貰えるし、気に入ってくれたらまた次も買ってくれるかもしれないね」


(じゃが、これに関しては運じゃな。戦士団は戦闘に備えて沢山の回復薬を持っていくからな。いらないと思ったら相手にして貰えないかもしれん。病院でも金が無いからと断られる可能性が高い)


「そっかぁ〜 でもその方法が一番いいと思ったよ」


(では、街に行って情報を集めるのがいいじゃろ。何か戦士団に動きがあるかもしれん)


「そうだね。あ、あっちにおっきな街が見える!」


 前方に建物が密集している。そのどれもが色鮮やかで豊かさを感じた。


(あれがここら辺で一番大きな街ポートラじゃ。懐かしいのう……最後にここに来たのはもう10年も前だ)


「来たことがあるんだね」


(わしが行ったことのない場所などありはせん。若い時は世界中を周っては知識を蓄えていたものだ)


「凄く勉強熱心だったんだね。俺、勉強は苦手だったから羨ましいよ」


(わしの父の影響かもしれん。いつも机に向かう姿を見ていてな、父はその知識の豊富さから国王からも頼られる存在だった。それが誇らしくて、いつか自分も父のようになりたいと後を追うようになっていたのだ)


 その話を聞いているとアークリーの事を少しは分かってきた気がして少し嬉しかった。


(飛んでいるのを見られたら騒ぎになるからあの森に降りるといいだろう)


「そうだね」


 街から少し離れた森に降りるとそこからは歩いて街に向かった。


「うわぁ……デカい……」


 大きな門を真下から見上げると首が痛くなるほど高い。


 周囲を見回すとガヤガヤと人が溢れていた。誰も俺に視線を合わせないところを見るとこの格好でも怪しまれないみたいだ。


「まずどこに行けばいいの?」


(そうじゃな……戦士団の拠点には行かんほうがいい。確か街には拠り所という護衛など様々な仕事の依頼を受け付ける場所があってのう。そこに行けば色々と情報が手に入るであろう)


「そっか、じゃあ行ってみるよ」


 俺は人の流れに乗って街の中に入ると看板を見ながら拠り所を目指していった。

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