第5話
朝の日差しを受けて目を覚ました俺は部屋を出ていくと両親の笑い声が耳に入ってきて自然と頬が緩んだ。
「あ、おはようセイナ」
俺を見たお母さんが昨日見れなかった笑顔で挨拶をしてくれた。
「おはようお父さん、お母さん」
「おはようセイナ。聞いてくれ、カアズ君の病気が治ったんだよ!」
お父さんは自分の事のように喜んでいた。その喜びように本当に優しい人だと思う。
「良かったね」
俺もふたりの笑顔につられて微笑んで返した。
やっぱり薬草の効果って凄いんだな。
俺は改めてこの世界の薬草が凄い力を持っている事に驚いた。どうやら前の世界での薬草とは全くの別物だと思ったほうがいいかもしれない。
再び平和が戻っていつものように山に向うとアークリーを呼び出した。
「この世界の薬草って凄い力を持ってるんだね。前の世界じゃ考えられないよ」
(薬草は神より与えられし加護のようなものじゃ。しかし、薬草は配合をして効果がでるもの。一歩間違えれば毒にもなるからな。先人達が自らを犠牲に薬草から薬を作る技術を残してくれたのじゃ)
「そっか、じゃあ昔の人達に感謝しなきゃね」
(それより何か用があるんじゃないか?)
「うん、この山って色んな種類の薬草があるじゃん? だから色々な病に効く薬を作っておきたいんだ。そうすれば何かあった時安心できるかなって」
実はカアズの件から薬草を調合して薬を作る事に興味が出てきていた。
(確かに、この山はわしが今まで見てきた中でも薬草の豊富さは群を抜いておる。恐らく水が良いのだろう)
「この山から湧き出る水って凄く美味しいんだよね」
(清らかな水がある所に沢山の薬草ありといったものじゃ。もしかしたら何処かに珍しい薬草が生えているかもしれんな)
それを聞くと冒険したいという思いが強くなった。
「この山って凄く高いのもあってまだ行ってない場所が沢山あるんだ。これから行ってみようかな」
この山を登るのにかなりの体力がいるのは村の誰もが知っている。俺もその広大な範囲に頂上まで登ろうなど今まで思ってもいなかった。
でも、よく考えれば俺には魔法で飛べるというインチキな事ができてしまう為にどんなに急な崖があろうとスムーズな探索ができるはず。
「時間もあるし、行ってみるか……」
早速新たな薬草を探そうと山をぐるっと飛んでいた時、急斜面の崖の途中に洞窟を発見した。
「何だここ?」
洞窟の入り口から少し中に入るとヒヤッとした感覚に見舞われた。
「うわぁ……凄い……」
明かりを灯した瞬間思わず感嘆の声を上げる程、鍾乳洞に似た幻想的な景色に魅入られてしばらく体が動かなかった。
(うーむ……山の中にこれ程の空間があるとは……奥に何かありそうじゃな)
「行ってみよう」
中はひんやりとしていて水がポタポタと落ちる音と俺の砂利を踏む足音だけが洞窟に鳴り響いていた。
「ここが行き止まり?」
奥に進んでいった先は開けた場所になっていて、見上げても天井が見えない暗闇になっている。
「綺麗……」
視線をその真下に移すと青く光る水溜まりが凄く綺麗でまたもや言葉が出ないほど魅入ってしまった。
(な、なんと! こ、これは恐らく神秘の泉じゃ!)
いきなりアークリーの驚く声が頭に響いて俺は現実に戻された。
「神秘の泉?」
(神秘の泉とは大地の力が凝縮された場所の事じゃ。そしてこの水には特別な力があるとされておる)
「どんな力なの?」
(言い伝えでは薬草の効果を上げるとされていてな。飲むだけでも力が湧くそうじゃ)
「水溜りの周りに花が生えてる」
青くうっすらと光を放つ水溜まりを囲むように白い花が咲いていた。
(な、なんと……これはまさか……)
綺麗な花を見ていた俺はアークリーの信じられないものを見たような反応に耳を傾けた。
「この花を知ってるの?」
(神薬というのを知っているか?)
「しんやく?」
(神薬とは伝説として言い伝えられた幻の薬の事じゃ。その名の通り神の力が宿ったといわれ、その効果はどんな病でもたちまち治してしまうという……)
「凄いじゃん!」
(わしの記憶ではこんな伝説がある……ある若者が珍しい薬草を求めて山を登っていたが運悪く崖から落ちてしまった。それでも男は瀕死の状態で生きていたのだ。何とか這いずり、目の前の洞窟に入っていくとそこには青く光る泉が姿を現したという……じゃが若者はそこに咲いていた花の上で力尽きてしまったのじゃ。そこで奇跡が起きた。若者が目覚めると体が見事に治っていたというのじゃ)
「まさにその伝説みたいな光景だね」
(わしも見るのは初めてじゃ。まさか死後になって見る事になるとは感慨深いものじゃな……)
アークリーの話から察するとその薬は泉の水とこの綺麗な花が関係しているのかな。
「じゃあこの花と水を使えば凄い薬……神薬だっけ? それができるんじゃない?」
(そうじゃな、伝説を読み解くと男はこの花の上で力尽きた後体が回復しておる。もしかしたら花を泉の水に漬ければいいのかもしれんな)
「じゃあ瓶が必要だね。でも参ったな……これから沢山の薬を作って置くにはいっぱい瓶が必要なんだよね」
俺の村に瓶なんてあまり見たことがない。それほど物が無いのだ。殆どが木でできているからきっと今ある瓶も何処かの旅人が残したのかもしれない。
(そうじゃな、それにただの瓶ではなく薬用の方がいいぞ? 長持ちするからな)
それは是非とも手に入れたい。
「うーん、あんまり行きたくないけど何処かの街で買うしかないか……」
俺は空を飛べるから行こうと思えば何処でも行ける。だけど今まで行かなかったのは人混みが嫌だったからだ。今住んでいる村はちょうど良く感じられるくらいで居心地がいい。でも、今回ばかりは行かないわけにはいかなかった。
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